『マンガ 仏教入門――仏陀、かく語りき――』
蔡 志忠(作画)
玄侑 宗久(監訳)
瀬川 千秋(訳)
2006年
大和書房
★★★☆☆
だいわ文庫の「3-1 B」。漫画で学ぶ「雑阿含経」! サブタイトルは「仏陀、かく語りき」。
タイトルに「マンガ」とある通り確かにイラスト主体の仏教入門だが、比較的文字の多い本でもある。よくある「先生と生徒の会話形式」の本ではない。
作者の蔡志忠氏は台湾の漫画家で、本書ももともとは『仏陀説』というタイトルで台湾で刊行されたものらしい。ただし、巻末に「本作品は当文庫のオリジナル作品です。」とあり、「翻訳本」という扱いではないようだ。日本で刊行するにあたり僧侶の玄侑宗久氏による解説を加えた、という意味で「オリジナル作品」なのかもしれない。
「雑阿含経(ぞうあごんきょう)」は、ブッダの直接の言葉を集めたものと考えられているものだそうだ。本書は、仏教とは、ブッダとは、といったところから始まり、仏教の基本的な考え方――諸行無常、諸法無我、涅槃寂静、因縁、苦、空、中道、持戒・禅定・智慧、解脱、等々――を、ブッダ自身に語らせたもの。多くのトピック(80程度)が各1〜3ページの短い漫画――大勢の弟子に囲まれたブッダが独りでしゃべっている場面が多い――にまとめられており、10ページに1箇所くらいの割合で玄侑氏による「仏教ひとこと解説」が挟まれている。ブッダは多くのトピックについて語っているようでいて、実はほとんど同じことを繰り返し説いていることがわかる。
1年ほど前に、『
怒らないこと』(スマナサーラ(著) 2006年 サンガ)、『
怒らないこと 2』(スマナサーラ(著) 2010年 サンガ)、『
生きる勉強』(スマナサーラ・香山(著) 2010年 サンガ)、『
ブッダ――大人になる道』(スマナサーラ(著) 2006年 筑摩書房)と、スリランカ上座仏教長老のアルボムッレ・スマナサーラ氏の本を続けて読んで仏教に初めて興味を抱いた時に、図書館で偶然目にしたのが本書。玄侑氏の「ひとこと解説」がわかりやすく(分量はそれほど多くはないのだが)、「やはり、日本で生まれ育った人間には、日本で生まれ育った人間による解説の方がわかりやすいな」と思った記憶がある。ところが、1年経って再び読み直してみると、わかるようなわからないような…。ズバッとこう、「要するに、こういうこと」と言い切って欲しいのだが…(言い切っているのかもしれないが)。
本書のブッダのセリフには、(当然と言えば当然だが)仏教用語が多用されている。ほとんどのページの下には用語解説が付されているのだが、巻末にまとめるか索引があれば尚のこと良かったと思う。ブッダの言っていることそのものはそれほど「深遠」というものでも「難解」というものでもなく、単に仏教用語が「難し気」に見せているだけなので、(もとのお経の文言と対比させるかたちで)仏教用語を全く用いずにブッダ自身に語らせることができていれば素晴らしい本になっていたのではないかと思うのだが…(考えてみると、上述のスマナサーラ氏の著作は「仏教用語は一切使わない」という路線で書かれている)。
ブッダの教えというものは、徹底した自己救済を目指していて、ある意味「自分の苦悩さえなくなれば、それで良し」というところがある。それもそのはず、ブッダは驚くほどのネガティブ・シンキングの人で、「人生の苦悩というものは、すべて本人の心の内から生まれる」と考える。ブッダの言う通り、「楽になりたい、楽になりたい」という想いそのものが一層の苦を生み出しているのなら…、確かに「生きている限り、何もかもが苦である」と諦めちゃった方がかえって気が楽なのかも(笑)。
それでは本書を読んだだけで「心の平安」が得られるかと言うと…、それは難しいだろう。本(しかも漫画)を読んだだけで「解脱」できるわけがない。本書でも、ブッダの教えを頭で理解するだけでなく、「実践」することの大切さが繰り返し唱えられている。ところが、本書には具体的な実践方法は書かれていない(それは本書の趣旨から外れてしまうのだろう)。これは1年前にも思ったことなのだが、具体的な瞑想の方法などが書かれている本を読んでみたいと思う。
イラストに描かれているブッダは、時に水上の岩の上で座禅を組み、時に軽やかに宙に浮かび、ある時は楽器を奏で、ある時は川の流れや宇宙と一体となり、本当に自由。何事にもとらわれていない。ブッダと弟子たちを囲む菩提樹や池に咲く蓮の花、海や川に住む魚、鳥たちの姿、空に浮かぶ雲や星まで、実に清らかに描かれている。本書を読んだだけでは悟りはひらけないかもしれないが、この雰囲気を味わえただけでも良かったかもしれない。
ちなみに、「四苦八苦」とは、生老病死(これだけで、まず「四苦」)、愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五蘊盛苦、の8つの「苦」のことを言うのだそうだ。ホント、人生は「苦」だらけ、「一切皆苦」だ(笑)。
本文150ページ程度。
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Kota's Book Review

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