『90分でわかる日本経済の読み方――基本と常識――』
角川 総一(監修)
かんき出版編集部・大勝 文仁(編著)
1993年
かんき出版
★★★☆☆
1990年代前半、バブル崩壊の数年後に書かれた「日本経済」入門。とは言っても経済学の入門書ではなく、テレビ・新聞の経済ニュースの見方・読み方、的な本。表紙にある「円高も貿易摩擦もまとめてつかめる!」という文言が示すように、90年代前半の時事的な経済問題を平易に解説している(特に最後の2章にその傾向が強い)。
全6章構成。基礎知識・用語の解説に始まり、金融政策、財政政策、産業、貿易、時事問題…、と続く。それぞれ9〜15トピックで、各トピックは2〜4ページと簡潔にまとめられている。イラストや図表が多く(文章量はページ数の半分程度)、比較的文字は小さいがスイスイ読み進んでいける(「90分」では読めなかったが…。僕は本を読むのが遅いので、1日2章ずつで3日かかった(笑))。
刊行年を考えれば当然だが、最近の本ではなかなかお目にかからない用語(公定歩合、財政投融資、大蔵省、EC、GATT、NIEs、貿易摩擦、日本叩き、等々)が頻出するので、適宜読み替えていく必要がある。ただ、経済の「基本」の部分(金融政策や財政政策、外国為替、証券取引の仕組み、等々)に関する解説は20年経った今ももちろん通用する。むしろ、20年前の「日本経済これからの課題」(公的債務問題、少子高齢化、社会保障・年金、税制、市場の閉鎖性、食料自給率、地方経済の活性化、環境・エネルギー問題、外交ベタ、等々)が現在とそれほど変わっていない(どころか、ますます悪化している!)ことに驚かされる。
僕はもともと政治・経済分野が苦手で、本書はその苦手意識を克服しようと90年代の半ばに本屋で適当に見繕って買った数冊の内の1冊。ところが、そのまま1度も開くことなく本棚の隅で埃を被っていた。結局今も「政治・経済ニュースは苦手」なままだ。
それがどういう風の吹き回しか今更ながら読んでみて…、少なくとも最初の章(「経済の一般常識」)程度は理解できるようになっていた! このテの本はほとんど読んだことがないので(やはり90年代後半に『紳助のサルでもわかるニュース』シリーズ(読売テレビ放送 1994〜1998年 実業之日本社)の本を読んだことがあるだけ)、本書の良し悪しを判断することは僕には難しいのだけど、「案外シッカリしているな」という印象。もし同じ著者らが同じコンセプトで新しい本を出しているなら読んでみようかとも思った(監修者の角川氏は最近もこのテの一般向け経済解説書を出しているようだが、編著者の大勝氏はここ数年本の執筆からは遠ざかっているようだ)。まぁ、今だったら池上彰氏の本を読めばいいのだろうが…。
僕自身はバブル期やバブル崩壊時にはまだ高校生〜大学生だった。地方の公務員家庭で育った自分にとって、「バブル狂想曲」は自分の生活とは何の関わりもない「テレビの中の(東京の)出来事」という感覚だった。今更ながら当時の日本経済の置かれていた(マクロ経済学的な)状況がわかってくると、「なるほどこういうワケでバブルが膨らんでいったのか」と納得。放り出されたままになっていた「あの頃」を位置づけ直すことができたのは思わぬ収穫。
ちなみに、最後の2章を読むと、25年前の世界経済における日本の立ち位置とほとんど同じようなところに、現在の中国が置かれているのかな、という印象(経済の発展段階が、ではなく、世界経済における存在感が)。逆に言うと、80年代後半の日本は現在我々が中国を見るような目で欧米から見られていたのだろうということ、そういった視線に対して当時の日本人が感じていた反感を現在の中国人も抱いているのだろうということも、オボロゲながら見えてきた。20年前の日本経済の本を読んで現在の中国についての見方が(ほんの少しだけだが)変わったということが、僕にとっては面白い経験だった。
本文190ページ程度。
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Kota's Book Review

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