『プロになるためのWeb技術入門』
小森 裕介(著)
2010年
技術評論社
★★★☆☆
Webアプリケーション実現の背後にある仕組みや技術を整理して示してくれる一般向けの読み物。タイトルに「プロになるための〜」とある通り、主な対象はWebデザイナーやソフトウェア開発のプロを志す学生さんか(関心があれば中高生でも読めると思う)。開発者向けの本ではないので、サブタイトルの「なぜ、あなたはWebシステムを開発できないのか」はミスリーディングかと思う。また、JavaScriptやHTML5、CSS等、クライアントサイドの技術については全く触れられていない点は要注意。
「Lesson 0」〜「Lesson 9」まであるが、(「前書き」「前置き」「後書き」「参考図書」のような章を除くと)実質的には6章構成。扱われているのは、Webアプリケーション普及までのWWWの歴史、サーバー・クライアント間のHTTP通信、CookieによるSessionの実現、Web・AP・DBサーバー間の連携・構成、フレームワーク(StrutsとiBATIS)、セキュリティ対策、といったところ。こういったトピックについて学んでいくために必要となる概念や用語を順を追って説明してくれる本。「ちょっと易し過ぎるかな?」といったところから話を始め、一通りを解説していく。全体を俯瞰するための本なので、「広く浅く」といった印象。
同じ著者による『
なぜ、あなたはJavaでオブジェクト指向開発ができないのか』(2005年 技術評論社)が良かったので読んでみた。ただし、『なぜ、あなたはJavaでオブジェクト指向開発ができないのか』が「オブジェクト指向開発ができないのは、オブジェクト指向設計ができていないからだ」という回答を示すものだったのに対して、本書はサブタイトルの「なぜ、あなたはWebシステムを開発できないのか」という「問い」に対する原因と対策を提示してくれるような本ではない(この本を読んでも、Webシステムを開発できるようになるワケではない)。本書は読者に、Webアプリケーションに関連する技術の「見取り図」を提供しようという本なのだ。
その際に著者が重視しているのが、ある技術が必要となった背景から説明を始める、という点。その技術はそれ以前の技術に見られたどのような問題を解決するために生み出されてきたものなのか、また、その技術は新たにどんな問題を生み出してしまったのか、という具合に、技術の発展の様子を弁証法的に描いている。本書で扱われている技術のほとんどは「枯れた」技術だが(本書は最新技術を紹介するような本ではない)、それらを歴史的な流れの中に位置づけ直しているため、様々な技術の相互関係が頭に入ってきやすい。本書の執筆には時間がかかったようで(途中で一時中断していたのだとか)、全体を通して見るとコンセプトの「揺らぎ」を感じる箇所もあるにはあるが、この解説の方針は概ね成功していると思う。文章も平易でスイスイ読み進んでいける。
内容のレベルとしては、本当に必要最小限(Amazonに投稿されているレビューの評価は全般的に高過ぎると思う)。私自身はプロでもなんでもなくただの「プログラミング言語学習好き」に過ぎないが、年の功(?)ということなのか、本書で初めて知ったような話は多くはなかった。確かに、このような基礎知識も知らずにプロとしてやっていくのはキツいだろうと思う(むしろ、WebデザイナーなんかがWebアプリケーションの全体像(背後で動いている仕組み)を理解するために読むべき本、という印象を受けた)。ソフトウェア開発の世界で飯を喰っていきたいという若者が学生のうちに身に付けておくべき「常識」を、その歴史的経緯を踏まえて解説してくれる本なのだと思う。ただ、Webアプリケーションというものが素性の異なる様々な技術を組み合わせて実現されるものであるため、一通りを抑えるだけでも一苦労であることは紛れもない事実。私自身こういった知識を何年もかけて様々な書籍やWebページ等を参照することによって少しずつ得るしかなかったことを考えると、それらが整理・整頓されて1冊にまとめられている本書のような書籍にも一定の価値はあるとは思う。
尚、PHPやJAVAのコード例を掲載してサーバーサイドで行われている処理について解説している箇所があるが、コードの詳細について解説する趣旨ではないので、PHPやJAVAの経験は必要ないと思う(プログラミング経験の全くない読者でも細かい部分は気にせずに大きな話の流れを捉えるよう気を付けていれば理解できると思う。例えば、Strutsが「具体的にどのように動作するのか」よりも「どんな問題を解決しているのか」「新たに生み出された問題は何か」を理解することの方が重要)。ただし、HTMLの中のどの部分にPHPやJAVAのプログラムが埋め込まれているのかを識別できる程度の知識はあった方がいいとは思う。
Webアプリケーションの動作の様子を垣間見るための実験用(体験用)Webアプリケーションが著者による
サポートページに用意されている。ソースコードや正誤表、補足情報等も掲載されている。
本文270ページ程度(他に、参考図書・索引として7ページ)。
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Kota's Book Review

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