『四訂版 中高一貫教育をサポートする 体系数学1 代数編』
岡部 恒治(編)
2015年
数研出版
★★★★☆
中高一貫校向けに6年分の数学のカリキュラムを組み直した検定外教科書「体系数学」の、中学1・2年生用「代数(上)」。出版元は「チャート式」で有名な数研出版。サブタイトルは「数と式の基本的な性質を知る」。
「正の数と負の数」「式の計算」「方程式」「不等式」「1次関数」「資料の整理と活用」の全6章構成。中学校に入学して初めて負の数を習い、文字を使った式の扱い、それを用いる方程式・不等式、1次関数のグラフ表現を学ぶ、といったところまで。「資料の整理と活用」では、主に記述統計の初歩について学ぶ。
この「体系数学」の特長は、学習指導要領の内容に縛られずに、学習するトピックの関連性により章の内容や1冊の章構成、中高6年間で学ぶ数学の体系を再構成している点。例えば、第3章「方程式」では、学習指導要領では中1レベルの「1次方程式」と中2レベルの「連立方程式」を続けて扱い、続く第4章では、高校の数学Tに含まれる「不等式」を扱っている。第5章でも、中1レベルの「比例・反比例とグラフ」と中2レベルの「1次関数とグラフ」を続けて取り上げている。確かに、関連するトピックを続けて学習した方が理解しやすいように感じる。
学校の教科書なので当たり前だが、非常に素っ気ない(笑)。ただし、文章自体は簡潔なものの、何をどのような順序でどのような例を用いて説明するかはよく練られている、という印象。噛み砕いた解説は一切ないので(笑)、算数・数学に苦手意識をもっている中学生には参考書が必要になるかもしれないが(この「体系数学」シリーズに対応した参考書と問題集も数研出版から刊行されている)、少なくとも本書が新書1冊分の価格で手に入るというのは有り難い話(笑)だと思う。
中学校卒業以来30年振りに中学校数学の教科書を開いてみて感じるのは…、「数学の教科書には、『何故それを学ぶのか』についての『目的』が書かれていない」ということ。行先も告げられずにただ「歩け」と言われているようなものだと思うのだ。「何故、文字を使った数式の扱いを学ぶ必要があるのか?」と言えば、直後に方程式や不等式を習う(そしてそれを活用する)からだし、「何で方程式なんて習うのか?」と訊かれたら、「応用すると便利だから」と答えればいい。何故たったそれだけのことが書いてないのだろう? 「この教科書では、これからこんなことを学ぶ。そのことによって、こんなことができるようになる」と「全体構想」を最初に示してくれてさえいれば…、「何でこんなことやらなきゃいけないの?」という不満は大いに軽減されると思うのだが(だから「大人向けの本」では、「本書の内容」が大抵前書きで示されるではないか)。だいたい若い頃というのは近視眼的にしかモノゴトをとらえられないものだから、よくて「文章題にも応用できる」くらいにしか思わないのではないか。本当はむしろ逆で、テストのために勉強するのではなく、「現実の問題を解く(力をつける)ために」方程式を習うのだと思うのだけど(先日読んだ『
算数・数学が得意になる本』(芳沢光雄(著) 2006年 講談社)でも、「日本の数学教科書は全般的に応用の話題が少ないといえます」と指摘されていた)。
それと、やはり『
算数・数学が得意になる本』に「どうも日本の教科書は、ものわかりのよい優秀な子どもを対象にして記述してあるようで、一般に『反例』がきわめて少ないのです」と書いてあった通り、「間違った例」は(コラム中の)1例しか載っていない。ところが、人間の理解って「正しい例」ばかりを見ていても深まっていかない(涙)。「誤った例」を見て、「そうか、これをやったらダメなのか」と気づくもの(これぞ、畑村洋太郎的「失敗学」のススメ)。NHKテレビの語学番組なんかを見ていてもそう思う。生徒役のタレントが優秀過ぎるとダメ。お笑い芸人なんかがデキの悪いフリをして間違えてくれた時にこそ、多くのことを学べるのだ。人の振り見て我が振り直せ。
あとは…、数学を学ぶことを通して「論理的思考や問題解決の力を身に付ける」という部分にはあまり焦点が当てられていないように思う。数学を学んでそういった力が身につかないのなら、それこそ何のために数学なんて習うのか。今回、意地で全ての練習問題を実際にやってみて(笑)感じたのは、「計算問題は解けば解くほどツマラなくなってくる」ということ。だって、それはもう「機械的処理」だから。そして、それが「機械的処理」なら、「コンピュータにやらせればいいじゃないか」という気持ちになってくる。だから本当は、もっと多くの様々な文章題を解かせ、「この問題を解くためには、何に注目して方程式を立てればいいのだろうか?」というような「着眼点」「目の付け所のセンス」のようなもの、あるいはそもそも「方程式や不等式を解けば、未知の値(の範囲)がわかる」という感覚を養うことをもっと重視してもよいと思うのだが…(そのために参考書があるのかもしれないが、だったら参考書を教科書にしろよ、とも思う。「註釈」が必要な教科書っていったい何なんだ?とも思うし)。僕は学校の教科書に多くを求め過ぎなのかな…。でも、誰の目にも触れる教科書だからこそ、ね…。
本書の山場は、計算であれば「連立方程式」、概念的には「1次関数」か(「1次関数」の章末の演習問題では「考え抜く力」と「説明力」をそこそこ求められる)。結局「等式が成り立つ」ってどういうことだと理解するか。ただ、最初から最後まで読み通してみて、「将来的なつまずきポイント」になりそうに思ったのは「文字」のイメージ。意外だったのだが、方程式で使われるxやy等の文字は「変数」扱いされていない(xやyはその方程式(等式)を成り立たせる「特定の値」いわば「未知の定数」だから)。ところが、一見、等号を不等号に変えただけに見える「不等式」で扱われる文字は「変数」扱いされている(その不等式を成り立たせる「値の範囲」が問題となるため)。次の「比例・反比例」や「1次関数」になると、先ほどの方程式と同じようなものに思える数式中の文字も「変数」扱いされるようになる(様々な値をとるxとyの対応(写像)関係が問題とされるため)。このようにxやyといった文字の扱いのニュアンスが少しずつ変わっていくのだ。何かが違うのだけど、何が違うのかわからない(この辺りの戸惑いに関しては、『
「なぜ?どうして?」をとことん考える高校数学』(南みや子 2013年 ベレ出版)でも、中学校数学ではある条件を満たす特定の値や範囲を求める対象に過ぎなかった「文字式」が、いつの間にか(笑)高校数学では数と数との対応(写像・関数)関係を示すものととらえ方が変わっていることを指摘している。「代数」から「解析」へ徐々に軸足が移っていく、ということなのだろうか?)。これはつまずく(笑)。
この「体系数学」シリーズは、「体系数学1(中学1・2年生用)」の「代数編」(本書)と「幾何編」、「体系数学2(中学2・3年生用)」の「
代数編」と「幾何編」、「体系数学3(高校1・2年生用)」の「数式・関数編」と「論理・確率編」、「体系数学4(高校2年生用)」(微積分の基礎と数列・ベクトル)、「体系数学5(高校3年生用)」(複素平面と微積分の応用)の計8冊で構成されている。
全ての練習問題の解答を載せた「解答編」(学校では配布される前にあらかじめ抜き取られちゃうヤツ(笑))が55ページの冊子として付属する。単に正答が羅列されるだけのものではなく、正答を導き出す過程が記載されており、大変役に立った。
本文180ページ程度(他に、確認問題・演習問題の解答、索引として8ページ)。
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Kota's Book Review

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