『文系ギタリストのためのエフェクター使いこなし術』
アイク植野(著)
エレクトリック・ギター編集部(編)
2011年
ヤマハミュージックメディア
★★★☆☆
エレキギター向けの各種エフェクターの誕生・発展の歴史を概説した、気楽に読める読み物風の1冊。エレキギターを弾く人なら誰でも楽しく読めると思うが、タイトル通りの「ギタリストのためのエフェクター使いこなし術」として手に取ると肩透かしを喰らうことだろう。サブタイトルは「エフェクターの原理や効果がわかる」。
全8章構成。いわゆる「歪み系」「空間系」「モジュレーション系」といったカテゴリー毎に、主だったエフェクターの原理とその歴史、使用上の注意点について概説している。本書で紹介されているのは、
歪み系: ファズ、ディスト―ション、オーバードライブ
空間系: ディレイ、リバーブ
モジュレーション系: フェイザー、コーラス、フランジャー
ダイナミクス系: ボリュームペダル、コンプレッサー
フィルター系: イコライザー、ワウペダル、オートワウ
ピッチ系: オクターバー、ピッチシフター、ワーミーペダル、インテリジェントピッチシフター
その他: マルチエフェクター
取り上げられていないのは、ノイズサプレッサー、サンプラー、ルーパー、アンプシミュレーター、トーキングモジュレーター(笑)くらいだろうか…。
エレキギター用エフェクターの発展の歴史を顧みるのにちょうどよい1冊。しかし、実践的な活用法についての記述は多くはなく、「使いこなし術」というタイトルは本書のコンセプトをあまりよく表わしていないように思う。帯に「ギター・サウンドが劇的に変わる!」とあるが、本書を読んで変わるとしたらむしろ驚き。エフェクターの接続順序が悪くて本来の効果が得られていなかったような場合だけだろう。ほとんどのギタリストは新しいエフェクターを手に入れる度に(嬉しくて(笑))一晩中あれこれ試す(他のエフェクターとの組み合わせや、接続順序も含む)ものだと思うので、活用法について本書から新たに学ぶことは多くはないと思う。
タイトルに「文系ギタリストのための」と銘打たれているが、本物の文系読者には全くの説明不足。おそらく各種エフェクターの原理やその発展の歴史を振り返る際の視点として「技術的視点」からは見ていない(開発された当時の技術的背景や流行の音楽スタイルと結び付ける「歴史的(社会的)視点」が主)という点をもって「文系ギタリストのための」としたのだろうが…、少なくとも小学生レベルの理科の知識しかもたない僕にはエフェクターの電気機器としての側面に関して腑に落ちる解説はなかった。エフェクターの改造や自作を試みようという読者にはほとんど参考にならないことは確かなので、本書が「理数系」「工学系」「技術系」ではないことには同意するが、「非・理系」=「文系」ではないので…。
帯に「これ以上、分かりやすくできません!」とあるが、「えっ、これで!?」というのが正直なところ。「これ以上、分かりやすく解説できません!」という意味ではなく、「これ以上、説明を省けません!」という意味に解すべきようだ。例えば僕には、エレキギターのピックアップで発生した電流が何故アンプに向かって流れて行くのかがわからない(何故アンプからギターへ流れて来るのではないのか(と言うか、流れて来てるの?))。おそらくこのことを説明するために本書の第1章第1節ではまず「インピーダンス」という概念が取り上げられているのだが…、「エレキギターはハイインピーダンス」ということ以外ちゃんと説明されておらず、この通り僕には全く理解できていない(涙)。文系読者には「プリアンプ」と「パワーアンプ」の役割の違いなんて当然わからないし、「そもそもアンプとは何か」から説明して欲しかった(本書にも、「アンプ=増幅器」です、というような「説明」はあるのだが…、本物の文系読者にはアンプが「何を」増幅しているのかがわからない(泣))。
ちなみに、日本に生まれ育った者としては、やはり日本のメーカー(BOSSブランドを擁するローランド、Maxonブランドの日伸音波製作所、また、電子部品の開発元としての松下電器、等々)がコンパクトエフェクター史上のマイルストーンとなるような製品を次々と登場させていたのを知り、嬉しくも思った。
本文160ページ程度。
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Kota's Book Review

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