『普通のダンナがなぜ見つからない?』
西口 敦(著)
2011年
文藝春秋
★★★☆☆
結婚情報サービス大手・オーネットのマーケティング部長にして、ビジネスコンサルタントの著者が暴く「婚活にまつわる『不都合な真実』」。アラサー・アラフォーの未婚女性を主な対象とした新書サイズの軽い読み物。
2部構成。前半が「不都合な真実」を暴いていく「現状認識篇」、後半が「それを踏まえて、どうすべきか」を指南する「実践篇」。前後半とも各節4〜6ページの16節から成っており、各節1ページ目は節タイトルとイラストのみ、本文中に図表やグラフの類も多く、スイスイ読み進んでいける。
著者は結婚情報サービス大手・オーネットの部長さん。こういった企業には、サービス利用者自身について(性別、年齢、職業、年収…)だけでなく、彼らが「お相手」に何を求めているのかまでデータがあるワケで、言わば「神の視点」に立って結婚市場の全体像を把握することができる。著者はもともと金融業界、コンサルタント業界にいた人のようで、そういうビジネスコンサルタント的な視点から結婚市場を眺めてみると…、という意外性が本書のキモ。興味深いデータがたくさん紹介されており、そういった分析的視点そのものを面白がれるかどうかが本書を評価できるかどうかの分かれ目になりそうだ。そういう意味で、他人事気分で読める人の方が本書の内容を楽しめると思う。「面白がる」余裕のない切羽詰まっちゃってる人には笑えないだろうと思う(涙)。
タイトルの「普通のダンナがなぜ見つからない?」というのはこういうことだ。以前、母に頼まれて文房具店に手帳を買いに行ったことがある。母の希望は、
・10×16センチくらいのサイズ
・見開き2ページの月間スケジュール表が基本フォーマット
・1週間は日曜始まり
・周辺にメモを書き込める余白がある方がよい
・できれば黒や紺は避けたい
要するに「普通の手帳が欲しい」、ただそれだけのことなのに…、売り場にあったかれこれ300種類くらいの商品の中で母の希望条件を「全て」満たすものは、何と2〜3種類しかなかったのだ! 小さなサイズの手帳は「週間スケジュール表」が基本フォーマットとなっているものが多いし、ビジネスパーソン向けの手帳は「月曜始まり」のものが多い。色は黒・紺・茶といった男性的な色合いのものが圧倒的に多い(女性向けのデザインのものは子供っぽいかカジュアル過ぎるものが多く、「大人の女性」向けの落ち着いた色合いのものは少ない)。母の希望サイズのものが全商品の1/2、月間スケジュール表主体のものが1/2、日曜始まりのものが1/3、周辺に余白ありが1/2、黒・紺以外のものが1/5、とすると…、全てを「同時」に満たす確率は1/2×1/2×1/3×1/2×1/5=1/120。120冊に1冊くらいしか存在しないのである。「普通のダンナが見つからない」のも全く同じ、むしろ当たり前の話なのだ、という衝撃から本書は始まる。
本書のことは数年前(本書刊行時?)にインターネット上の著者インタビューか何かを読んで知った(新刊書を紹介する趣旨の連載だったのかもしれない)。著者の「金融/コンサルタント畑出身」という異色の経歴と結婚市場を見つめる冷めた(と言うか、「冷徹」で「非情」な(笑))視線が面白いと印象に残り、「いずれ読んでみたい」と思っていた。婚活を当事者のミクロ的視点からではなく全体を俯瞰するマクロ的な視点から捉える。これはこれで社会学・社会科学の真っ当な姿勢だと思うのだ。デュルケムの『自殺論』がそうであるように(…なんて知ったかぶりをしてるだけで、本当は読んだことないけど!)。ただ、今から思えば、そのインタビューは本書の前半の内容から意外性に富むトピックを掻い摘んで巧みに再構成しており(よく出来た映画の予告編がそうであるように)本書以上に面白かったので、実際に読んでみると期待していたホド面白くはなかったのだが…。何と言うか、著者くらい優秀な人には、ちょっとした小ネタを集めて1冊の本にまとめてしまうことくらい朝飯前なのだろうと思う。
「いずれ結婚したい」と思ってはいるものの、まだ婚活にはそれほど積極的に取り組んでいない、という(若くはない(涙))女性読者を想定した内容か。表紙イラストのお姉さんは見るからに「お水系」だが、「私は『玉の輿狙い』じゃない!」というマジメ一筋の公務員や学校の先生、あるいはバリバリのキャリアウーマン(死語!?)なんかも(切羽詰まる前に)早めに一読しておいた方が良いかも。ただ、何と言うか、「結婚はしたいけど、いい人がいない!」という焦燥混じりの女性に親身に寄り添う優しい本ではないので(笑)、読んで気持ちの良い本ではないだろうなと思う。また、「実践篇」の内容も「ライバルの少ない領域で、とにかく数を撃て!」、要は「婚活は戦略的に行え!」という話(ビジネス的には正攻法なのかもしれないが)に終始するので、それほど「実践的」ではないかもしれない。
ちなみに、この本をアマゾンで買って以来「あなたへのオススメ」が婚活本バカリになってしまって、ちょっと戸惑っています…。
本文200ページ程度。
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Kota's Book Review

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