「『いちばんさいしょの算数 2 わり算とひき算』★★☆☆☆」
数学のお勉強
『いちばんさいしょの算数 2 わり算とひき算』
橋本 治 (著)
2008年
筑摩書房
★★☆☆☆
ちくまプリマー新書の「084」。
本書は、小学校の算数を扱う4冊シリーズの2冊目で、「1桁の正の整数のわり算」を主に扱っている。対象読者は小学校の低学年〜中学年の子供たち。「算数で大事なことは、自分が知っていることを大切にすることだ」という、
1冊目と全く同じコンセプトが本書にも貫かれている。
本シリーズの1冊目では、「1桁の正の整数のたし算と(答えが10を超えない範囲の)かけ算」を扱っていた。本書では、「かけ算の考え方(「何がいくつならいくつ?」)がわかれば、わり算の考え方(「そこには、なにがいくつあるのかな? それだけでいいのかな?」)もわかる」というアイデアに基づいて、わり算の学習をひき算よりも先に始めている。
1冊目同様、大人には到底耐えられないと思われる冗長さで、辛抱強く「わり算の考え方」を伝えようとしている。算数の問題を前にして頭の中で起きていることをしつこくしつこく文章化していく様には、自己のアプローチに対する著者の信念のようなものを感じる(僕自身はあまりの冗長さの故に、逆にストレートな理解が阻まれてしまうのだが)。
本書の内容に関して1つだけ失敗ではないかと思うのが、本書の前半において、「10 ÷ 2 = 5」に対する「10コを2つにわけるとそれぞれ何コか」という概念化と「10コから2コずつとっていくと何セットとれるか」という概念化が併存していること。この2つの概念化がどちらもそれなりの説得力をもって存在しているということ自体が、わり算がわからなくなる最大のポイントではないかと思う。本書でも最終的にはこの点に戻ってくるわけだが、前半部で何の説明もないまま両者が併存しているのは致命的な作戦ミスではないかと思う。
本シリーズの3冊目では、「2桁以上の数(おそらく正の整数)の計算」を扱うようだ。本屋で1・2冊目を見つけて即座に買ったものの、シリーズ前半の2冊を読んでみて、後半の3・4冊目を読む気は正直かなり失せた。その理由は、本シリーズには、実際にこの通りに教えたとして返ってくるであろう子供たちの反応があまり反映されていないような気がするからだ。
例えば、『
数学でつまずくのはなぜか』(小島寛之 2008年 講談社)を読むと、算数・数学を苦手とする子供たちが算数・数学を苦手とする理由は、「正しい考え方が身についていないから」ではなく「間違った考え方を身につけてしまったから」であることがわかる。僕から見ると、本書の著者である橋本治はもの凄く創造性があって頭の回転の早い人。算数・数学を苦手とする子供たちを救うために重要なのは、著者のような「本質を掴む」ことに秀でた人の頭の中を見せることではなく、既に身につけてしまった「誤った考え方」をどう矯正していくかにあるのではないかという気がする。そういう意味では、数学嫌いをなくすために必要なのは、「間違った考え方」に焦点を合わせることではないのか、と思うのだ。
ついでに、本の内容についてではないけれど、本シリーズの大きな短所として「カバーがすぐに汚れてしまうこと」を挙げておきたい。カバンに入れて少し持ち歩いただけで、みすぼらしいほどボロボロになってしまうのは如何なものかと思う。
本文175ページ程度。
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Kota's Book Review

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