『ファミリー』
イ・ジョンチョル (監督)
スエ (主演女優)
チュ・ヒョン (主演男優)
パク・チビン (子役男優)
2004年制作
2006年公開
★★☆☆☆

露骨なお涙頂戴路線に乗った家族愛映画。監督デビュー作としては悪くないデキだと思うが、テーマがどうも…。オリジナルタイトルは「
가족(カヂョk)」=「家族」。英語タイトルは“A Family”。ちなみに、韓流コメディ映画『ファミリー』(チェ・ジノン監督 2002年)とは全く別の映画(こちらのオリジナルタイトルは「
패밀리(ペミrリ)」=「ファミリー」)。
主人公は、不良仲間と取引し傷害の罪を被って3年刑務所で暮らした、20歳そこそこの若い女性。刑務所から出て、年老いた父とまだ幼い弟(そもそも、この家族構成に無理があるような気がするんだよなぁ…)の待つ家に帰って来た娘を、元・警察官の父は笑顔で迎えることができない。父のせいで家族(特に、死んだ母)が犠牲になっていると考えている娘は、父が不治の病にかかっていることを知っても自業自得だと意に介さない。そんなバラバラな家族の結束点である弟が教会の合宿で家を空けた間、2人は久し振りに向かい合うことになる。娘は、父の弟に向ける愛情の深さを見知って、その愛情が昔も今も自分にも向けられていることを理解するようになる。やっと心を通わせることのできるようになった2人だったが、自らの命がそう長くないことを知った父は、娘に付きまとうかつての不良仲間から娘の将来を守るために、ある決心をしていた…。

脚本もよく練られていて、俳優たちの演技もしっかりしている、映像の感じも良い、と思うのだけど…、観終わったときに感じたダメダメ気分はいったい何に由来するのだろう? 正直、アザとい映画、という印象。観客を泣かせることを最初から狙い過ぎているような気がする。そういう意味で、これまた露骨なお涙頂戴映画であった『
ラスト・プレゼント』(オ・ギファン監督 2001年)を想い出した。
ある意味、酷い話。一応物語としては、互いを思いやっていながらも疎遠な関係が続いていた父と娘が、父の死を目前にして和解する、その最後の10日間の父娘の交流を描いた話なんだけど…。それはこの物語のポジティブな側面であって、ネガティブな側面に目を向けてみれば、10代でグレ始めた娘のために破滅してしまう家族の話でもある。冷静に考えてみると、この娘、信用するに値しない行動をこれまでもとっており、その娘の将来を最後まで心配しているのは父1人だけだという、そこも泣かせどころなのかもしれないが…。

これは「娘をもつお父さん」向けの映画なのかなぁ…。中学・高校・大学生くらいの年頃の娘というものは、だいたいどこの世界でも父親に対して嫌悪感を抱くものなのだろうと思うけど、就職して社会に出たあたりから、1人の人間として見たときの父親の良さ(と悪さ)みたいなものを見分けられるようになってくるもののように思う。本作の主演女優のスエは、「こんな娘が欲しい」とつい思ってしまうようなタイプの人で(え? 僕だけ?)、そのスエに、父が娘をどれだけ愛しているかを理解してもらえたら、世のお父さん感極まって涙ポロポロ流すのではないかと思うのだ。

少し不思議だったのは、この家族が「秘密の持ち合い」によって成り立っている点。僕はこれを一時期「
片想い文化」と名づけて、日本にも韓国にもそういう文化があるのだろうと考えていたのだけど、韓国文化について書かれた本なんかを読んでみると、「韓国人は日本人と比べるとずっと率直だ」というようなことがよく書かれていることを知った。この家族には母親がいないのだけど(病気で早くに死んでしまったらしい)、そのせいで韓国の通常の家族関係に見られるバランスが崩れてしまっているのかもしれない。
スエは、『
ウェディングキャンペーン』(ファン・ビョングク監督 2005年)で初めて見たとき、「ネガティブな表情が魅力的な女優」という印象をもった(韓国TVドラマ界で一時期「涙の女王」の異名をとっていたらしい)。普通、男でも女でも一番魅力的なのは笑顔で、多くの女優が笑ったときに一番映えるものだと思う。ところが、このスエという人は、悲しそうな顔、困ったような顔、少し怒った顔、というような、ネガティブな感情を表わす表情でこそ、その魅力が発揮される人のように思う。また、華奢でどことなく寂しげな佇まいが印象に残る人なのに、同時に、度胸がありそうで、どんな逆境にも耐え抜く芯の太さみたいなものも感じさせる人なので、宿命的に悲劇女優とならざるを得ないんだろうな…、と思っていた。

本作は彼女の映画デビュー作で、彼女の演じた役はまさにハマリ役だと思う。イザとなったら殺人も厭わない、といった肝っ玉の太さを隠し持ちつつも、弟の前では母のような優しい笑顔を見せる。敢えて涙の演技は抑えて、悲しみと怒りの混じったような表情を効果的に使っている。お父さん役のチュ・ヒョンはベテランらしい落ち着いた演技を、子役のパク・チビンは無邪気なノビノビとした演技を見せていると思う。
今日の一言韓国語は、「
아빠한테는 내가 얘기한 거 비밀이다.(アッパハンテヌン ネガ イェギハンゴ ピミリダ)」=「パパには僕が話したってことは内緒だよ」。
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Kota's Movie Review

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