NET学園の新矢先生、kinopy先生による合作。看護系受験に必要な内容を網羅
「看護系ならコレ!【数と式】」(WBG受験数学研究会)※個人
数学T(および数学Uの一部)の「数と式」に絞り、高校数学の知識がない状態から、看護系の入試問題のほとんどが解ける状態まで引き上げることを目標に掲げた演習書。導入書と例題集を兼ねる「解法マニュアル」と、本冊の練習問題を再録・解説した「解答・解説」の2冊のセットで、これだけで看護系入試の頻出問題の解法がほぼ網羅でき、演習量も十分とれるようになっている。塾講師として看護系受験生の指導歴が長い、NET学園の2人の指導者(新矢先生・kinopy先生)が執筆していて、両人が運営する「ぴったし!看カン♪」のホームページから注文できる。
一番の特徴は、自学自習を強く意識していること。解法マニュアルは「Lesson」に分かれていて、ひとつのLessonにかかる時間は大体2時間程度。その中でまとまった内容を習得できるように工夫されている。さらに、いくつかのLessonごとに「ここまでの確認」というコーナーがあり、練習した内容が本当に身についているかどうかチェックできるようになっている。また、紹介ページで著者自身が語っているように、現課程では数学Uに配当されていたり、教科書では扱っていないような問題でも、看護系入試に必要だと思われるものについては大きくとりあげている。
気になったのは、やはり到達点の高さとテンポのよさとのバランスをどうとるかということ。見た限りでは、やや前者寄りすぎるかなと思った。確かにこれぐらいはやらないとクセのある看護系入試に対応できないことはわかるが、全部の学校がいちばん難しいレベルの問題を出すわけではないのだから、優先度の低い問題は後回しにするなどして、早い時期に分野全体の見通しを持たせるような低学力者向けの配慮があっても良かった気がする。出題範囲には2次関数や三角比なども含むわけだし、学校ごとの出題傾向を分析して出ないと判断すれば「とばせる」部分がもっと明確になっていれば、さらに安心して取り組める本になるだろう。それを考えたら、2冊に分かれているのは大きな救いだ。練習問題の解答・解説はそのへんの演習書よりもはるかに詳しく載っているので、この部分だけでも買う価値があると思う。
さて、少々余談になるが、この本の選題が妥当であるとするならば、看護系と呼ばれる学校の入試問題は、旧旧課程版ぐらいの教科書傍用問題集を参考にして作られていると考えて間違いないだろう。そのレベルの高さと範囲の広さ、そして難度の高さに、正直驚いてしまう。へたな大学の入試問題よりずっと難しいではないか。しかも、この本に載っている程度の問題で8割取らなければ思った学校には入れないというから2度びっくり。こうなると、この本の良し悪しということ以前に、問題を出す側にも注意をうながしたくなる。教育課程が変わるというニュースは新聞でも常に大きくとりあげられているが、果たして看護学校の入試出題者は、それを入試を作る自分たち自身の問題としてきちんと受け止めているのだろうか。どうしても入りたい学校がある受験生に、個別の学校の過去問を分析して、出題範囲の逸脱がないかまで含めてチェックし、アドバイスしなければならない指導者や、そもそもそういった情報がなく、習っていないことを入試に出題され、涙を呑まなければならない受験生の立場を考えたことがあるのだろうか。もちろん、すべての学校が受験生の現状を無視しているとは言わないが。