チャート式シリーズに出題率順配列の実戦演習書が登場。出題者のホンネもわかる?
「入試頻出 これだけ70」数学TUAB/TUABVC(数研出版)
教科書学習を終えた人を対象とした、入試基礎から標準レベルへの架け橋的な役割の演習書。本格的な過去問演習に入る前段階を固めるのに向く。文理別に2冊あるが、収録問題は一部重なっているので、用途に合った1冊を選んで取り組むこと。
いちばんの特徴は、教科書的な配列にとらわれず、いわく出題率の順に配列してあること。見開き1題の構成で、70題の入試頻出問題を例題として解説しており、それらにひとつずつ類題がつく。収録問題は、入試標準レベルと呼ばれる中では、取り組みやすいところが中心。難関とまではいかないがそれなりに骨のある問題を出す大学の問題をうまくとってきていると思う。
対象レベルとしては、教科書学習時にかなり進んだ問題まで押さえたはずだが、実力テストや模試になると点がとれないという人、難関大の入試問題で、難しい問題から何とか部分点がとれればと考えている人などがあてはまる。「青チャート」を何とか使いこなせていた程度が目安だろう。同じようなレベルで「数学標準問題精講」(旺文社)があるが、分量はこれより少なめで、出題大学はどちらかといえば国公立寄りなので、実際に見比べて選びたい。
解説ページには、問題文中のキーワードと解法の手順のほかに「出題者の本音」と呼ばれるコラムがあり、作り手側はこれをウリにしているところがあるが、実際に読んでみると期待外れもはなはだしかった。内容的には、筆者としても納得できるものは半分弱ぐらいで、残りは現在の受験生に読ませるには酷かなと思われるものなのだが、問題はそれ以前。確かに例題の解説見開きの右下に一定のスペースがとられているが、1つのコラムが複数のページにまたがっていて続きがその問題とはまったく関係のないページに飛んでいるところがちらほら見受けられるのである(当然、その先のページに書かれている内容は、その見開きの例題とは何の関連もない)。それでもカバーには「1題ごとに」と書かれているのだが、これはウソではないか。出版社の良心にもかかわる問題なので、こういった誇大広告のような文言を入れるのは絶対にやめてもらいたい。
企画当初に「1題ごと」という話があったのだろうが、最新でない入試問題まで含めてその出題者を1題ごとにつきとめ、裏話を聞くことなどできるわけもなく、おおかた出版社とつながりのある大学の先生に執筆を依頼したのだろう。しかし、各例題の内容にこじつけたコラムを問題数ぶん揃えることができず、しかもこの手の話題は語り出すとけっこう長くなったりするので、このような中途半端なかたちになってしまったのではないか。筆者はそう推測している。
同時期に出た「入試必携168」よりもレベル的には高め。カバーの裏にシリーズ全体の相関関係があるので参考にしてもらいたい。