旧課程版からの焼き直し。同じ内容を表現をかえて2回以上解説する箇所が多い
「名人の授業 石綿の数列7日間」新課程版(東進ブックス)
数列を基本事項から入試基礎レベルまでを7日(7章)の講義形式で理解することを掲げた講義調参考書。東進ハイスクール・衛星予備校で長く講師をしている石綿夏委也先生の著書で、旧課程時代に発売されたものの焼き直しになる。
各章にはまずかんたんな導入があり、それから例題(→補助解説)→練習が何サイクルかあって、最後にまとめの「講末問題」がある。特徴的なのは、生徒さんからの質問の多いところを例題の解説とは違った切り口から説明した補助解説「チェックマンのもっとわかりやすく!」の部分だろう。全部が全部画期的にわかりやすいとは感じないが、イラストを入れたりして、教科書の無機的な説明がいやで数学が嫌いになったような人にも何とか読ませようという努力が感じられる。
同時に、読んでいてどうしても気になったのもその箇所。同じような説明が何度も繰り返され、全体的に間延びした印象を受けてしまうのだ。率直に、「切り札」的な説明の仕方があるなら、それを最初にもってくればいいのにと思う。また、他の導入書のように、例題の答案に直接注釈を書き込んだ方がわかりやすいものをわざわざ別のページで解説しているから、例題の解法よりも説明を読むほうがどうしてもメインになってしまう。著者である講師が、言葉の意味をかみくだいて説明したり、たとえ話を用いて生徒さんにイメージを持たせたりといった説明の「引き出し」をたくさん持っていることは十分に伝わってくるが、それをただただ並べただけなので、どんな生徒さんにもある程度は受け入れられるであろう半面、どんな生徒さんもある程度のストレスを感じながら読み進めていくことになるのではないか。
少々余談になるが、これが衛星授業をビデオで見ている生徒さんなら、最初にコンパクトな説明、次に苦手な人向けの詳しい説明と続いてもかまわないと思うし、むしろその方がよい。すぐ理解できた生徒さんは後者の部分を「早送り」してテンポよく次の問題に入り、逆に詳しい説明を聞いても1度では理解できない人は「巻き戻し」をして最初のほうをもう1回見たりといったことをするのだが、説明の順序が逆になっていると、早送りと巻き戻しの開始・終了のタイミングがつかみにくくなることが想像できる(特に早送りをする際、冗長な説明からどこでコンパクトなまとめに変わるのかの境目がつかみづらく、この辺かなと思ったところで何度も止める羽目になる)。さらに、衛星授業では講師に直接質問することが基本的にできないから、中途半端な説明で逃げることには危険が伴うという側面もあるだろう。
予備校系の参考書に対していつも言うことだが、人気講師を著者に迎えて講義調参考書をタレ流しのように作ればそれだけでありがたがられる時代は終わった。参考書づくりのノウハウをきちんと持っている著者を、授業アンケートに代表される「人気」「授業力」とは別の尺度でもっと評価されてもいいはずだ。