手段を問わずに短期間で入試基礎レベルを身につけたい人に
「私立中堅医大医学部受験の数学T・A」(文英堂)
突然変なことを言うが、「どうしても医学部に行きたいが、数学が苦手であせっている生徒さん」ほど参考書・問題集を薦めにくい人もいない。実際にそういう生徒さんの担当をしていたこともあるが、彼らの要求を大まかにまとめてみよう。
・学校で使っていた問題集は瑣末な問題も多く、やり直すにも骨が折れる。
・教科書の導入は堅苦しいし、だいいち入試問題は載っていない。
・講義調の導入書もあるが、読むだけでも時間がかかりすぎていやだ。
なかば消去法的に、これらの要求をすべてみたすような本を考えてみると・・・?
*** 「スマート」「マイルド」「コンパクト」
・・・なるほど、そういうことか。妙に納得してしまった。
網羅性は多少犠牲にしても「医学部で出る問題」とそれらに取り組むための基礎を扱うことを優先し、いくつかのパターンだけでも覚えさせようという構成は、この手の本でよく見かける。私大の医学部のほか、歯・薬・獣医などの志望者の多くはパターン暗記のような学習に対する抵抗感が薄いが、かといっていわゆる網羅系に挑む根気はない。その間をうまくとった構成といえる。メモ書き程度に教科書の基本事項のまとめ(のような部分)もあるのだが、ここも初学者には嬉しく、かつ何年も浪人して何回も同じ授業を受けている人も邪魔に感じないであろう内容と構成である。
まとめると、全体にわたって、良く言えば欠点がないとでも言うのであろうが、悪くいえば中途半端。でも、もうどうしようもなく追い詰められてしまった生徒さんが最後にすがるのは、おそらくこんな本なんだろう。