正式名称は「チャート式 基礎からの数学」(数研出版)ですが、皆さんには
□「青チャート」(数研出版)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/135.html
と言ったほうが分かりやすいでしょう。高校数学参考書の定番としてあまりにも有名で、賛否両論根強いこの本をどう扱うべきかについて、ここでは考えていきたいと思います。
まず、筆者の主観ですが「青チャート」に限らず中〜上級者向けの網羅系(総合)参考書のウリとして
*** 教科書学習時から使えるが、難関大の入試問題にも対応できる
ということがあると思います。勤務校で営業さんのお話を聞いたり図書目録を見たりしていても、よくそういう言葉が出てきます。そして、十分に使いこなせる人が使えば、およそその言葉どおりの力がつくように基本事項が網羅されており、また問題が収録されてもいます。でも、途中で挫折したり一部だけ「つまみ食い」程度で終わったりする人も多く、「もし別の本で代用できるならそうしたい」という相談をしょっちゅう受ける本の代表にもなってしまっているのです。なぜでしょうか。
その理由は、「よほど順調に学習が進まない限り、一気にこの本の後半のレベルには達しきれないから」ということに尽きるでしょう。この本は、いわば
*** 重箱に入ったおせち料理
のようなもので、ひと品ひと品を見れば手のこんだもの、おいしいものが多いのだけど、かまぼこのつもりで食べてみたら実はゼリーだったり、全体に冷たくて食欲がわかなかったり、また数人分・数日分が1つの箱に入っているからどれだけ食べればいいか迷ってしまったりと、いろいろ問題があります。こういうとき、誰かが取り分けてくれたり、一緒に食べている人が味を教えてくれたりすればいいのですが、時には1人でこれを目の前にしなくてはならなかったりもするわけで、そうなると余計にへこんでしまいます。
・・・たとえ話はこれぐらいにしましょう。
この本に取り組む場合、教科書の本文、問・練習レベルはマスター済みであって、基本例題の半分弱は自力で解けることが前提になるというのが筆者の持論です。また、例題の下に収録されている問題(練習)は反復問題(例題の内容そのままの)ではなく、やや発展的なものも含まれていますから、これらすべてが初見だとすると大変です。できれば例題のいくつかはすでに解けるようになっておいて、残ったものについてはザッと読んで理解できるようにしたいですね。そこで、
$ 1)タイトルに「基礎からの」とはあるが、やはり敷居が高い。
という人は、導入部分と教科書本文〜節末レベルの例題を
○「坂田アキラの面白いほどわかる」シリーズ(中経出版)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/369.html
○「ホントはやさしい」シリーズ(文英堂)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/105.html
などでサラっとでいいから概観してから取り組むべきですし、
$ 2)例題と練習の内容・レベルにギャップを感じる。
という人は、基本例題レベルの類題演習を補うために
○「カルキュール[基礎力・計算力アップ問題集]」(駿台文庫)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/45.html
などで少し練習するなどし、落ち着いてから進んだ問題に取り組んでいきましょう。
ここまでの部分がクリアできた皆さんは、例題の下の「練習」や「重要例題」などの問題を自力で解くことを中心に据えられるはず。ようやくこの本を効果的に使えるところまで来たわけです。
が、青チャートに限らず到達点が高い本を持っている場合、学校の授業でそのレベルまで扱ってもらえないと、せっかくの「おいしい」部分が実質独学になってしまい、息切れの原因にもなります。こういった場合、無理は禁物です。演習で学ぶ機会もあるでしょうし、最近は他に良い解説書・演習書が出ていますから、とりあえず、教科書学習時は、学校の授業内容と関連する部分だけでも確実に押さえることを意識します。
$ 3)補充・重要例題レベルがなかなか定着せず、覚えるだけになりやすい。
$ 4)節末・章末の問題がマニアックすぎて手が出せない。
という意見は掲示板でも本当によく聞きますが、1問1問どれも完璧に仕上げようとすると大変ですから、とりあえずは「入試になるとこんな問題も出るんだ」(触れるだけ)という認識にとどめ、全体像をつかむことを優先します。そして、模試を受けたあとなど、「どこかで見たような問題なんだけどなあ」と感じたら、気になった部分を見直してみて、似た問題を見つけたら(辞書的使用)、その部分だけでもしっかりやり直す。この繰り返しで徐々に知識の穴をなくしていくべきでしょう。
さもなくば、今の時点で手が出ないレベルの問題をそもそも収録しない本に切り替えて「つまずき」をなくすことを考えなくてはなりません。こうなると、「青チャート」を使いつつ他書で補うという方向にはいかなくなります。相応の覚悟があれば「黄チャート」や「白チャート」のような同系統の下位シリーズ(他出版社では「ニューアクションβ」「シグマトライ」など)に戻ってもいいのですが、効率が悪くなるので、普通は少し目先を変えて
○「入試必携168」(数研出版)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/123.html
○「数学T+A(/他)の考え方解き方」(文英堂)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/39.html
あたりの例題をザーッとやっていくような感じになります。他に、定番として
○「1対1対応の演習」(東京出版)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/137.html
○「数学標準問題精講」(旺文社)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/121.html
があります。前者は「青チャート」の重要例題レベルを集中的に扱った本で、少ない問題数で重要ポイントをひととおり押さえることができ、必要と感じたら青チャートにプラスしてこの本をやることもできますが、相当の予備知識も必要になるでしょう。後者は一部教科書レベルの確認程度の問題から扱っていますが、分量的にやや多めなので、早く上のレベルに触れたい人には不向きになります。難問を出題しない大学の志望者で、収録問題の難易度がそろった本が欲しい人向けと考えましょう。
さらに、これらに加えて
$ 5)解答・解説が読みこなせない/肌に合わない。
という要素もからんでくるのですが、あとは個人の好みの問題にもなるので、ここであまり決めつけることはしません。これまでにあげたものを含め、学習者である皆さんひとりひとりが自分の目で見て「これ!」と納得できるものを選ぶのがベスト・・・とだけ言っておくことにします。たとえば、
○「頻出レベル理系数学T・A・U・B・V・C」(マセマ)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/119.html
のように、本文のどこが「答案」なのかはっきりしない、解説の延長上に解答があるみたいな本もあり、正直言うと筆者の好みではないのですが、人によって理解の仕方もきっかけもさまざまですから、すでに気に入って使っている人にまで「やめろ!」とは言いません。ただ、本の特徴や位置づけを認識してもらうための情報を提供し、たとえばこの本なら「過渡的なもの」ととらえ、本格的な答案作成練習に向かう前に、期間を限定して使うのがよい、といった提案をしていきます。
さて、こうして考えてみると、何も特定の本を皆さんの学習の中心に据える必要はなく、場合によっては総合(網羅系)参考書など1冊も使わずに、望むレベルに到達できるという気がしませんか?
・・・実は、筆者自身が「レビュー」を始めたのも、今の仕事を志したときに書店で参考書を探していてこう感じたからなのです。
$ 1:定番は定番として認めつつも、
$ 2:時にはそこから離れて考え直してみる。
$ 3:そして、改めて定番の良さを感じ取る。
「青チャート」に限らず、筆者は今でも日々この思考を繰り返しています。
世の中には、いろいろな参考書・問題集があるべきだと思います。特定層をターゲットに絞った本も必要ですが、その一方で「すべてを1冊に盛り込む」というテーマに挑戦し続ける本があってもいい。
・・・そして、これを読んでくださっている皆さんには、まずは自分に合った教材を見つけるための「視点」を手に入れて欲しいと思うわけなんです。