筆者が高3だったとき、たしか秋だったはずですが、将来の進路について、学校の先生に次のようなことを言われました。担任ではなかったので、おそらく授業中にクラス全体に対して話したと思うのですが、今の筆者自身の考えにも大きな影響を及ぼしているところなので、再構成を試みます。
・・・というわけで、記憶の糸を繋ぎ合わせ、足りないところは今の自分の考えも織り込んで書き直してみたわけですが、改めて見直してみると、受験生の皆さんはもちろん、受験生を抱える保護者さんにも、ぜひお読みいただきたい内容になりました。恐らく、私のクラスで話した先生も同じ気持ちのはずです。一部、聞いた内容からだいぶ変わっているところもあるかも知れませんが、もしそうだったらごめんなさい!
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この中に、大学に合格したくないと思っている人はいないでしょう。もちろん僕(先生)も、皆さんには良い結果を出して欲しいと思っています。が、何から何まで自分の思い描いているとおりにいくとは限りません。たとえば、センター試験で失敗してしまうかも知れないし、英語の単語の意味を度忘れしてパニックになってしまうかも知れません。まあ、長い人生だし、1度ぐらい試験で失敗しても大したことはないのだけれど・・・。
でも、ここで大事なのは、何か1つ「つまずいた!」と思ったとき、やぶれかぶれになってはいけないということ。それこそ、今までやってきたことがすべてムダになってしまいます。そのためにも、自分の中で何を優先したくて、どこは譲歩(妥協)できるのか、これからの入試に向けて一度整理しておいて欲しいし、保護者さんともよく相談しておいて欲しいわけです。
考えるべきことは、「1:どの大学へ行くか」「2:どの学部へ行くか」「3:いつ行くか」という3点。1つめは、どうしても○○大学に行きたいとか、自宅から通える範囲にある大学に行きたいとか、とにかく東京圏がいいとか、そういうこと。2つめは、とくに工学部などの場合は学科まで行きたいところが決まっている人もいれば、大体この系統の学部ならいいとか、文系・理系ぐらいしか決めていないとか、いろいろな人がいるでしょう。3つめの「いつ」というのは、現役で行くか、1浪は覚悟しているのか、それこそ何浪しても行きたいのかということです。
これら3点に優先順位をつけるとすると、3×2×1=6(通り)の場合があるということは皆さんにも教えたと思いますが(筆者注:この先生も、今の筆者と同じ数学の先生でした・・・苦笑)、教科書レベルの、人によっては小学生でも習っていることを冷静に見据えられなかったがゆえに、「えぇっ!そんな結果に?」と言われるような結果しか得られなかった先輩もいますから、決してバカにしてはいけないのです。まあ、6とおりのどれかまではハッキリ分らなくても、どれを最優先するかだけでも自分の中で意識しておけばだいぶ違います。
1:とにかく○○大学に行きたい!
親がその大学の出身者だとか、大学の研究室の研究内容を調べて興味を持ったとか、医学部を含めた理系学部の場合だと就職の際に大学の研究室のつながりが大事だからとか、いろいろと理由があるでしょう。あと、家から通える範囲で国公立といったらここしかない!みたいな人もいますね。「何浪しても東大理Vに行きたい」・・・もちろんそれも結構です。
こういった場合、自分としてはそのつもりはなくとも、入試本番まで含めて何が起こるか分かりませんから、1浪ぐらいは覚悟しておくべきです。センター試験の結果しだいでは、配点などを見て他学部に変えることも考えてください。あと、国公立志望者で、センター試験で失敗したりなんかすると、「どうせ受からないから、願書も出さない!」などと言う人もいますが、ここでヤケを起こしてはいけません。行きたい大学なんだから、入試の日だけでも足を運んで、どんな受験生が受けにくるかだけでも見届けましょう。試験場で隣に座った人が、高い確率で皆さんの先輩か同級生になるわけですから・・・。
これからの学習としては、過去問など目標とするレベルの問題に触れること、志望校・学部の頻出分野に絞った学習など、「対策」はある意味しやすいはずですが、それ100%というのは問題です。難しい問題にばかり手を出して、結局身につかなかったなんてことにもなりかねないからです。苦手対策なども兼ねて、今の自分のレベルで無理なく取り組めるものも併用していき、穴をなくしましょう。大雑把ですが、模試の判定なども参考にして、合格可能性が60%と言われた人は、前者を60%にして残りの40%を後者にあてる。しつこいですが、「今年ダメなら玉砕!」みたいな考え方はやめてください。
2:○○学部と名のつくところへ行きたい!
「親が医者だから医学部へ行けと言われている」などが典型ですが、医学部・歯学部・薬学部・獣医学部、あとは教育学部など進路や資格がらみになる場合がこれ。・・・筆者自身も、理工系志望でしたが広い意味ではここに入っていたはずです(TVゲームで育った世代ということもありますが、高校時代は「情報工学」、今で言うITに興味を持っていました)。あと、最近はいろいろと新しい学部・学科も出来ていますから、探してみるといろいろと面白そうな学部・学科が見つかります。こういった人の場合、入学後に進学振り分けのある東大などは(受かる学力を持っていたとしても)興味がないでしょう。
この場合、まずは「最悪、この大学の○○学部なら行ってもいい」という滑り止めを探しておきましょう。過去問を見てみて、今の学力でも点が取れる部分が見つかれば、それでかなり安心できます。「いざとなったらそこを受けて行けばいいや」となれば、だいぶ気分が楽になり、攻めの気持ちで今後の学習に臨めます(大阪に住んでいる筆者は、いわゆる関関同立の工学部・情報工学系の学科は全て調べ、どこか受けなさいと指導されました)。国公立限定で探すとなると難しくなりますが、その場合はやはり1浪程度覚悟しておくか、どちらかになるでしょう。
これからの学習としては、標準問題を取りこぼさないことを第一に考えましょう。一応、第1志望の学校の頻出分野ぐらいは意識しておくべきですが、第2・第3志望ぐらいまで含めて、過去問演習を中心にバランスのよい学習を心がけていくこと。あと、日ごろから答案をしっかり書く習慣をつけ、ミスは極力なくしてください。「記述だから」「マークだから」ということではなく、あとで見直しやすくするためにも答案・計算はしっかり残しておくべきです。
また、センター試験の結果しだいで受験校を変更することも念頭におくなら、特定の「出題傾向」に沿った学習には偏り過ぎないでください。数学で言えば「整数問題」などの瑣末な部分に時間をかけすぎないようにすること。対策したのにセンターで失敗して受験校の変更を余儀なくされたとなると、それも思考に狂いが生じる原因になりかねません。
3:何が何でも来春、大学生になりたい!
家の経済状況など、さまざまな事情があるでしょう。特にいわゆる1浪の人など、「2浪は絶対許さない」と保護者さんに言われたりしますね。また、授業進度が速くない学校の高3生の場合だと、「推薦入試で決めたい」という人も多いでしょう(筆者注:この部分は筆者の付け足しです。筆者の在籍校はいわゆる中高一貫で、進度はむしろ速く、推薦は私大医学部志望者が多かったです)。中には「一緒に受ける友達は合格確実だから」などという悲痛な叫びも・・・。実は、これがいちばん難しいです・・・入試なんて、何が起こるか分かりませんから。
月並みですが、とりあえず言えることは、センター利用なども含めて「それこそ、何校でも受けましょう!」ということ。自宅から遠くて、下宿しないと通えないようなところも含めてです。まあ、第1・第2志望ぐらいまでは、試験前の2〜3日ぐらい、他を受けずに家で勉強するように予定を組んだ方がよいと思いますが。あと、1校の結果を見て次をどうするか決めるというなら、同じ日に入試を実施する大学でも片っ端から願書を出しておいて、あとでどちらを本当に受けに行くか考えるという手もあります。・・・いや、笑いごとではありません。「何校でも受ける」というだけでも、本当に徹底すればそこまで考えられる、ということが言いたいのです。
学習面では、日が迫ってからの学習の進め方に注意してください。とくに試験日と試験日の間などは意外と学習時間がとれませんから、数学T→A→U→・・・とだらだらやるだけでは、「途中で第1志望の試験日が来てしまった」なんてことになる恐れがあります。当たり前ですが、第1志望の出題範囲に合わせて、そこまでには範囲全体をひととおり終えるようにする。それ以降は、残った中で志望順位の高いところをいくつかピックアップし、その大学・学部の頻出分野で、第1志望を受ける前に勉強しなかったところに重点を置いてその後の学習を進めるようにします。
また、こう考えると、併願先として第1志望とあまりにも出題傾向が違うところは薦められないことも分かるでしょう。受けずに済ませるならそれに越したことはないのですが、やむを得ず何校も受ける場合、「受けるだけ受ける」学校と、「きちんと対策して臨む」学校は自分の中できちんと分けましょう。
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ところで、今、「問題解決の授業」が話題になっているのを、皆さんはご存知ですか?「問題解決」というのは、ビジネスマン向けの啓蒙書では代表的なキーワードの1つで、昔からいろいろな本が出ていたのですが(そのうち何冊かは筆者も持っています)、最近、総合的な学習などで学校の授業にもとりいれられるなど、様々な方面から脚光を浴びるようになりました。
ですが、筆者は正直のところ「何を今さら!」と思っています。前述したように、大学受験のために勉強することだって、立派な問題解決の訓練になると思いますし、受験指南書のたぐいを見てみても、受験をそういった訓練の機会だと前向きに捉えるよう説いているものが少なからずあるからです。先ほどの話でも、皆さんの受験生としての悩みが、(ただ悩んでいるだけでは単なるモヤモヤで終わってしまうところを)たった6つのパターンに分けるだけで格段に「見えやすく」することができたと思います。よく「『分ける』ことが『分かる』ことにつながる」とか「『どこが分からないのか』が分かれば、問題は解決したも同然だ」とか言いますが、まさにそのとおりだと思いませんか?
・・・ただ、筆者が受験生だった頃と、今とではおそらく時代が違うのでしょう。入試の機会自体が増えるなど、大学に入ることが簡単になったために、これまで我が国の国民を訓練していた「システム」の1つが失われつつある(いや、もう失われてしまった?)ともいえます。そして、多くの国民はそれにうすうす気づき始めていて、そこに、分かりやすいキーワードが現れたものだから、一種の流行のように皆がドッと飛びついたのでしょう。
これを読んでくださっている受験生の皆さんの大部分は、自分の力を試すために、狭い関門に挑もうとしている人たちのはず。まずは、そこへ挑戦できる喜びをかみしめてください。そして、目の前に現れる様々な「問題」に向かって、結果を恐れず前向きにぶつかっていって欲しいと思います。今しばらくの学習が、そのための基礎を養うことにつながってくれたらと筆者は願っています。
