基礎から実践、発展レベルまで死角なし。骨太な総合参考書
「フォーカスゴールド」T+A/U+B/V+C(啓林館)
【評価】1〜10の10段階
総合:8
演習量も増やし、かつマニアックな内容まで完璧にしてライバルに差をつけたい人:10
教科書レベルを仕上げたあと、すぐに入試レベルを見据えた対策をしたい人:9
模試の会場などに持ち込んでライバルにプレッシャーを与える:5
「何となく『青チャート』はイヤだから」という理由で選ぶ:3
長い間学校採用のみで売られていたが、少し前からアマゾンでも新品が入手できるようになり(12年5月現在、現課程版U+Bおよび新課程版T+A)、生徒さんからのお問い合わせに対応できるようになったため、当レビューでも扱うことにした。
ひと言で表現することは大変難しいが、経験豊富な作り手が労力をかけ、情熱(?)を持って作っていることがひしひしと伝わってくる、大変骨太な総合(網羅系)参考書である。豊富な例題、分厚い別冊解答といった部分も他書(「青チャート」など)と比較して遜色ないが、基本事項のまとめにも副文が入るといった丁寧さがまず目を引く。加えて、「整数問題とピタゴラス数」といった数学的な内容はもちろん「定期考査の学習法」といったテーマまでを扱った「コラム」が大変読ませる内容。こういった高級な内容に触れて背筋を正してくれるような、意識の高い高校生の皆さんにおすすめしたい。
さらに、低学年のうちから数学をガンガン勉強して貯金をつくりたいという生徒さんには、発売当初から比べても大変充実した感のある巻末の「チャレンジ編」「実践編」がその要求に応えるであろう。学校の授業ではなかなか扱われにくい部分を丁寧に解説しているのはもちろんだが、すでに解いた問題に対して別のアプローチを試みたかと思えば、特に図形分野を中心にマニアックな内容を扱ってみたりと、「多彩」という言葉を使ってもまだ不十分ではないかと思わせるような内容。ここまでこなすのは極めて難しいだろうが、余裕のある人は、是非ここまでたどり着いて、進んだ内容・解法を「味わって」欲しい。
このように、筆者としても本書の作り手には敬意を表するしかないのだが、ふと考えてみると、「この本って、一体誰に向けて書かれているの?」と思わずにはいられない。巻末は(本シリーズのウリでもあるだろうから)我が道を行く内容でも構わないのかも知れないが、一般の受験生にはまったく歯が立たない内容がこれだけあると精神衛生上良くないし、学校採用だから「持たせる」以上質問を受ける場面も多々あるわけで、全指導者が質問に対応できるかということ自体がプレッシャーになって採択できない学校も出てくるのではないかと少々思いやられてしまう。確かに、部分部分を見れば読ませる内容、得難い知識が詰まってはいるけれど、これを使いこなせる生徒さんのイメージ(指導者のイメージも)が、残念ながら筆者にはつかめない。
この本の噂を聞きつけて「使ってみたい!」と言ってくる生徒さんに時々「出会う」ことがあるもあるのだが、ただ何となく現状に不満だから他の参考書が見たいという中途半端な意識では結局身につかないだろうし、特に自学自習だと類書以上に効果・評価が「割れる」本であるということを覚悟しておいて欲しい。筆者自身、この本について尋ねられてしまう立場だから仕方なく手元に置いてはいるが、すすめるかどうか以上に、尋ねてくる相手がどういう意識の持ち主かを探る方に神経を遣わされてしまうこともあって(苦笑)、いつその質問がやってくるだろうかと、内心びくびくしている次第である。
【基礎知識】
啓林館から発売されている上級者向けの総合(網羅系)参考書。基本的に学校採用のみだったが、最近はアマゾン等でも扱われるようになった。学校採用のみの販売になる前の「フォーカス」にはレベルが2種類しかなく、基礎寄りの内容だったが、学校採用時代にラインナップに加わった本書「ゴールド」は、版を重ねるごとに内容を充実させてきた。
各節の初めにある基本事項の「まとめ」は、副文がつくなど丁寧で、そのあとに教科書本文レベルの確認問題「Check」が続く。例題は網羅性重視で数が多いが、教科書学習時に押さえたいものに「Check」マークをつけ、難易度は「*」〜「****」までの4段階で区別されている。例題1題ごとに、類題として「練習」が対応、節末の「Step Up」に「章末問題」という構成はオーソドックスだが、巻末には「Level up問題」「演習問題」からなる「チャレンジ編」、さらに「実践編」が収録されており、こちらだけで演習書1冊分ぐらいのボリュームがある。巻末では、一部教科書的な分野の枠を超えた内容(数学Tの本でも、数学Uなどの知識を使う)が扱われているが、問題文に注釈がついていて見分けられるようになっている。
【リンク】
※新課程版T+A
※現課程版は、アマゾンではU+Bのみ新品あり。他は古本で扱っているようです(12年5月現在)