※当カテゴリ(数学トピック)に入れるべき記事なのかどうかという疑問もありましたが、こちらに久しく記事をアップしていなかったので、こちらに入れさせていただきました。
教材作り(特に作問)に関わる仕事を、・・・もちろん私の場合は本業の傍らという範囲ではあるものの、いろいろとさせていただくようになりました。当初から比べて、相応のものを作るスピードだけはそれなりに進歩した実感がありますが、こと『質』に関しては、常に「これでよかったのだろうか?」と思うことの繰り返しで、今でもやっています。
さて、『質』といっても、いろいろな側面・基準がありますが、筆者のように『商品』としての問題を作る場合は、独創性はさておいて『こちらの思った平均点・分布が出てくること』が重要な基準の1つになると思います。正解者と不正解者にスパッと分かれて欲しいとか、この問題は全員に正解して欲しいとか、その意図どおりになるということですね。
・・・ところが、これが、いつまでたってもなかなか上手くいかないものです。
ちょっと考えたら分かる程度の話で申し訳ないのですが、生徒さんが問題を読んでから正解に辿り着くまでのプロセスは、細かく見ていくと大変多く、複雑になっています。
1:問題文を読み、その内容を理解する。
・「aをbを用いて表せ」
→これでもう、何を聞かれているのか分からなくなる人もいます。
(「aを、」と点を1個入れるだけで、違うのかも知れませんが・・・)
2:問題を解く方針を立てる。または公式・解法を選択する。
・作問者が意図した解法がとれないと、回り道になります。
・ずっと前に習ったことなので忘れている、という場合もあります。
3:計算を行う。また、答案(証明)を書く。
・中学の図形の話ですが「直角三角形の斜辺と他の角がそれぞれ等しい」
→単に覚えるだけで、意味を理解していないと、用語は勝手に作られていきます。
(合同条件が3つから5つに増えるときに、途端にボロが出ます)
4:ミスがないか見直す。
・汚く書いていると、ミスを見落とします。
・もしくは、ミスに気付いたとき最初からやり直すことになります。
5:最後に「これで正しい!」という判断を下す。
・特に苦手意識があると、答えが出ても、それに自信が持てないことがあります。
・正しい答えを間違えていると思いこみ、慌てて消してしまうこともあります。
*:前問の影響
・前問の結果が使えることに気づかない。
・もしくは、前問と関係なく解けることに気づかない。
・前問で間違えているため、結果を使う部分が解けない。
・前問を解くのに苦労したため、解く気をなくしてしまう。
・前問までを解くのに時間がかかりすぎ、手が届かない。
書き出していけばまだまだあるでしょうが、この程度にさせていただきます。とにかく、問題というのは(少なくとも数学の場合は)どこでつまずいても解けないものなのだということを、再確認したかった次第です。
「平均点を予想する」・・・と簡単に言いますが、それは先ほど述べたような部分のすべての歩留まりを考え、掛け合わせるということになろうかと思います。ここはクリアするだろうとか、ここはこの程度の手間、時間で解けるだろうという予想は外れやすく、すべてを把握するにはかなりの経験が必要ではないかと思いますし、そもそも、どれだけ作問者が経験を積んでも、問題を解く人たち自体が入れ替わっていきます。
自分で教えていない生徒が解く問題を作ることは、過去問などのデータがあったとしても、そもそも難しいものです。
※写真は使い回しです
そのうえで、「正答率・平均点を予想しやすい問題を作るには?」という話になるわけですが、作問の際に出来ることは、先に述べた、問題を解く様々なプロセスのうち、どの部分はすんなり通過させ、どこで振り落とすのかという「意図」をハッキリさせ、振り落とす要素をなるべく絞り込むように心がけること、これに尽きるのではないかと思います。
1つの『処理』で2割の人が間違えると仮定して、5つの『処理』があると、正答率は0.8の5乗になるわけですが、いくらになるのか、電卓でも使わないとちょっと分かりません。が、
○『処理』を2つに絞れば、0.8×0.8=0.64つまり6割ぐらいの正答率になる
と予想できるわけです。多少乱暴な議論ですみませんが、
○正答率を5割にしたければ、同程度の『処理』をもう1つ増やす(0.8×0.8×0.8=0.512)
○(同じく)3割の人が間違えそうな『処理』を2つ用意する(0.7×0.7=0.49)
大体そのようなイメージを持って(と言っても難しいのですが・・・)作問に取り組む。これを1つ(いや2つか・・・)の目安にすればいいのかなあと考えたりします。
あと、「問題文を読むという最初のプロセス(処理)で、まずは振り落としてやろう!」と考えることが筆者自身もありますが、これが経験上、何故かうまくいきません。難しい/紛らわしい問題文を正しく読み取らせること、それも出題意図の1つではありますが、いわゆる「満点防止」の目的以外には、使いたくない手です。正答率・平均点をきちんと出そうとすると、「はなっから諦められてしまう」割合を読み間違えやすいことがネックになるのですが、基本的に、作問者はその教科が好きで、問題文も自分で書いたものだから読むのが苦にならないのに対し、出された問題を解く側は、全くそうではないことが、理由になるのではないかと思います。
最後になりますが、筆者を含めて、作問者には作問者なりの「こだわり」があります。が、こだわりがあると、その部分だけに目がいってしまって、例えば、問題の題材は大変面白いのだけれど、問題の設定が解答者に対して十分に説明しきれないために、解答者を混乱させてしまうといったところに、思いが至りません。そういう意味では、変にこだわりを持たない人の方が、(今の基準で判断した場合の話ですが・・・)作問者には向くと思うのですが、こだわりがないのと、アイデアがないのは、また別の話です。また、正答率・平均点が読みやすいからといって、そういう題材に偏ってしまうのも、教育的効果を考えるとどうなのかなあとも思います。
・・・と、考え出すとどんどん難しい方向に行ってしまうので、このあたりにします。低レベルなお話にお付き合いいただき、どうもスミマセンでした。