難関大入試で差がつく重要テーマを掘り下げて学習できる
「ハイレベル 数学T・A・U・B(/V)の完全攻略」(駿台文庫)
難関国公立大・私大の入試問題で、数学的に興味深い内容のものを多く扱った、数学を得点源にしようとしている受験生が知って(触れて)おくべき重要テーマを集中的に学習できる演習書。
「第T部 問題編」に収録される問題を「T・A・U・B]は44題、「V」は41題に絞り、この出版社の参考書(演習書)の全体的な特徴でもある、「じっくり読ませる」骨太の解説を前面に押し出した構成となっている。さらに目を引くのが、「解答」の前後にある「アプローチ」「フォローアップ」の中で、メインで扱われている問題の類題や、著者(講師)の解説したい解法に繋がる別の問題などを「例」として扱い、その解説まで中に入れていること。「ああ、学校の授業でやったこの問題は、こういう入試問題の解法に繋がっているのか」という「気づき」は、皆さんに受験勉強を通じて実感して欲しいところであるから、意識の高い受験生の皆さんには長期休暇(高3の夏休み・冬休みなど)などを利用して取り組み、すみずみまで読み尽して欲しい本である。
やや厳しい見方をすると、入試日程が全体的に前倒しになったおかげで自由な時間がとれなくなってきている昨今の受験生が、1題の入試問題の解説として、これだけの文章を読んでくれるものなのかどうか、正直あやしい。が、予備校の授業のもっていき方(及び、講師室に質問に行ったときの講師とのやりとり)ではよくありそうなパターンであるので、高いお金を払って授業を受けなくても、その一端に触れられるこういった演習書の存在は、(受験生はもちろん、筆者のような未熟な指導者にとっても)大変ありがたい。
【余談】
筆者は、指針部分で別問題を解説することを「前(まえ)例題方式」、同様に模範解答を提示した後のフォロー部分で別問題を解説することを「後(あと)例題方式」と勝手に名付けて呼んでいるが、言うなれば本書は「前後(ぜんご)例題方式」であろう。予備校系の参考書を中心によく見られる方式であるが、筆者の見た限りでは、前・後の例題の提示の仕方が秀逸な本が多く、勉強になる気がする。
恐らくは、予備校の授業で、テキストで扱われているメインの問題を解説していくだけだと、その授業のレベルに堪えない生徒さんがたまたまその授業を受けてしまった場合、「全然分からない」となってしまって満足度が与えられない(講師の立場からすると、アンケートの点数が伸びない)ということがあるのだと思われる。限られた時間内に、そういった生徒さんにも「それ以前」のレベルの問題の解法だけは理解してもらい、一方では優秀な生徒さんにも「ああ、さすが予備校の授業だな」という印象を持ってもらえる、指導者としての「テクニック」が、こういった演習書を生む下敷きになっているのであろう。
※14年3月15日執筆分に加筆修正