基本事項から入試標準レベルまで、各分野の全体を概観できる分野別シリーズ
「教科書だけでは足りない 大学入試攻略」整数/数列/場合の数と確率/数U・数V微分・積分(河合出版)
教科書と入試問題の乖離が激しい分野を初歩から応用・実践レベルまで丁寧に解説した演習書シリーズ。17年6月現在、「整数」「数列」「場合の数と確率」「数U・数V微分・積分」がラインナップされている。手に取りやすい参考書を目指して作られており、他書と併用しても邪魔にならない分量で導入から実戦レベルまでのひととおりの内容をカバーしている。これ以上のレベルが必要かどうかは、志望校の過去問も見て判断すべきだが、その前段階が到達点の目安と思って差し支えない。
たとえば「整数」の本文は全3章に分かれており、第1章の「基本的用語の確認」は数ページだけで、実質的には第2章・第3章の2章構成。第2章は「重要例題+類題」(28題ずつ)、第3章は「力だめし問題」(25題)だが、これまでに出題された大学入試の整数問題から、比較的取り組みやすいもの、ポイントが分かれば難なく解けるものをレベル別にうまく集めており、好感が持てる。「数列」は第1章が「君は教科書を理解しているか」(例題・練習が各22題収録されている)、第2章は「教科書だけでは足りない」(例題・練習各28題)という少々凹む(?)タイトルになっているが、概ね似たニュアンスにはなっている。さらに、各々例題の類題などの解説が別冊になっている。「場合の数と確率」も、第1章「基本事項」、第2章「重要例題と類題」、第3章「力だめし問題」。少々余談になるが、同じシリーズでも本によって著者が異なる場合、章のタイトルなどが微妙に一致しないと「ああ、河合出版だな」と筆者などは思ってしまう。
「整数」は、出た時期から考えて、あくまで現課程向け(11年度までの入学生対象)と考えるべきかも知れない。新課程(12年度以降の入学生対象)の生徒さんにも使えないことはないが、数学Aで扱われている「ユークリッドの互除法」などの内容はフォローされておらず(筆者注:1次不定方程式の解を見つけるのに、ユークリッドの互除法を用いる方法が新課程の教科書には載っているが、その内容が扱われていない、ということです。わた坊さんという方からご指摘を受け補足します)、「これまでに」出題された整数問題を主に扱っているので注意されたい。ただ、本書の出来を見れば、新課程下の入試が始まるまでに改訂版ができ、内容も整理・補完されていくのではと思われる。
難を言うとすれば、やはり解答のそっけなさが気になる。例題の解答の横には「背理法を用いた」といった補足説明(副文)用のスペースがあるが、あまり活用されていないし、別冊にはそういったスペース自体がないので、ごく一部のセンスのある受験生を除いた一般の生徒さんにはやや使いづらいかも。一応、解答のあとの「参考」で周辺事項や類題などを解説しているが、問題の解答を読みこなすのが総じて難しいのがこの分野の特徴であるので、もし改訂される機会があるならフォローして欲しい。また、この出版社の他の本についてもいえることだが、パッと見は著者(講師)の名前やカラーをあまり前面に押しださず、同じ「シリーズ」として発売されているのに、本によって扱っている問題の傾向・レベルが微妙に違っていたり、章立てやタイトルの付け方などの基本スタイルが揃っていなかったりする点は正直どうかと思った。
※13年1月15日執筆分に、新刊に関する内容を随時追加
(加筆した日・・・14年2月1日、15年5月10日、16年4月30日、17年6月5日)