差がつくレベルの問題の解法を集中的に理解しながら、点がとれる答案の作成も意識できる
「部分点をねらえ!数学T・A・U・B(/V)」(学研)
入試問題から、代表的かつ重要な問題を選び、見開きで1題ずつ解説した(一部例外あり)演習書。収録問題数は「T・A・U・B」が100題、「V」は70題。詳しくは後述するが、帯(おび)にもあるように採点基準がわかるのが最大の特徴である。本のサイズはB5判で、類書で言えば「大学への数学 1対1対応の演習」などと同じサイズ。「数学T・A(/U・B/V)標準問題精講」などのA5判より大きい。問題文は本文の見開き左上にも掲載されているが、別冊「掲載問題集」にもまとめられており、問題文だけを見て答案作成の練習をしたい人などにも使えるようになっている。著者はともに河合塾講師の、小倉悠司先生・戸田光一郎先生。
見開き2ページで1題を解説している箇所については、左ページに問題文と「解答への架け橋」(指針の講義)、右ページは「部分点を狙え!」(解答でポイントとなる事項を短い言葉で述べる)と「解答」、という構成になっている。本書の最大の特徴である「配点」であるが、解答の右に、問題全体を20点とした場合の採点基準が「〜に+○○点」という形で書かれており、問題文のすぐ下に、何点取れればどのレベルかという目安がA〜Cで示されている。「解答への架け橋」は、予備校の授業を受けている感覚で(講義調の参考書のように)読めるようになっていて、確率の問題では誤った考え方を紹介する箇所があったり、通過領域の問題、数学Vの微積分法がらみの総合問題などでは例外的に2ページを費やしていたりなど、結構びっしり書かれている。数列分野など一部の問題では右の「解答」とほぼ同じ内容の繰り返しになってしまっている部分もあるが、左右のページを見比べながら読むことで、より理解が深まるだろう。他書では、模範解答の右に、補足説明がちょいちょい入ることが多いが、本書においては、その箇所には部分点の目安を載せなければならず、そういった事情もあって、このようなレイアウトになったと思われる。
教科書学習を終えたあと、過去問演習に向けた基礎固めをしたい受験生(中堅以上の国公立大の理系学部の志望者。T・A・U・Bに関しては難関大文系学部の志望者も?)を意識して書かれていると思われるが、教科書の分野別に即した章立てになっているので、余力のある人なら各々の分野を学習した直後から(それこそ模試対策用などにも)使えそう。このレベルの受験生・高校生には、入試で実際に出題される問題を自力で完答するという経験が、恐らく少ないと思われるので、本の中で基準を言ってもらうことで、最後の答えまで辿り着けなくても一定の自信を持つことができるという点は評価に値する。
例えば「標準問題精講」(特にU・B)は問題数も多く、「T・A」「U・B」の2冊を仕上げようとすると相応の覚悟が必要になるのに比べ、本書なら100題で数学T・A・U・B分野で差がつく内容を集中的に学習できるので、「標準問題精講だと多いし、CanPassは問題数は100題強だけど解説はそっけないし・・・」などと迷っている人には、選択肢の1つに加えて欲しい。数学Vについても同様に考えれば、「標準問題精講だと明らかに負担が大きい(116×2題)、CanPassは収録問題数こそ60題と少ないが、全体的に大きめの問題が多い気もするので、もう少し基礎のところからやりたい・・・」と考えると、どういう人に合った本か、よりはっきりするだろう。
注意すべき点として、巻頭の「はじめに」でも述べられているが、本書における「採点基準」はあくまで本書の著者(講師)によるもので、実際にその問題を出題した大学に取材をするなどして掲載したものではない点をあげておきたい。表紙カバー見返しと巻末の「著者紹介」に、著者が模試の作成にも関わられていることは書かれているが、その経験を生かし、収録問題が仮に20点満点で模試などに出題されたとしたら、採点者はどこに重点を置いて採点するかを推測して、書かれたものと認識するようにしよう。また、「解答」を1ページに収める関係上か、図形の問題などで、図が左ページにしか描かれていない箇所があるが、通常であれば答案内にも描いておくべき図(指針の説明用の図ではなく)もあるので、そのあたりは適宜判断したい。
【雑感】
少々余談になるが、本書のタイトルから筆者が想像したのは、一部コラムが先生役と生徒役の対話形式になっていて「試験で残り時間がほとんどなくなってしまっても、答案にとにかく言葉を書いておけば点がもらえるんですか?」といった質問に講師が答える、もしくは生徒さんのナマの解答を講師が採点し、どういった理由でその点になったかを説明する、といった内容であったが、本書を開いてみると、そのようなことが直接的に述べられている箇所は見当たらず。こういった「軟派な」(?)内容を本書に求めると(出版社も河合出版でなく学研だし・・・??)、期待を裏切られてしまうので注意したい。
もとより、解答の右にある採点基準には、「条件把握に+3点」「〜に気がついて+3点×2」のように述べられているから、そういった箇所については、関係することを何か書いておけば部分点がもらえることがわかるだろうし、言葉による説明をいい加減にして、先の計算でミスしてしまうと、ほとんど点がもらえないことは容易に想像できる。
最後に1つ、どうでもよいが気になったこと。帯に手書きのような文字で書かれている売り文句が、「T・A・U・B」は「完答しなくっても合格(うか)る!」となっているのに対し、「V」は「点を積み上げて満点をとれ!」・・・なんだかなあ、と思ってしまったのは筆者だけ?
※18年12月25日執筆分より19年7月4日、同8月6日、それぞれ加筆修正