単問で基礎の確認が出来るセンター対策本。読ませる解説が特徴
「(年度版)勝てる!センター試験」数学T・A/U・B(文英堂)
【評価】1〜10の10段階
総合:8
基本事項をじっくり見直しながらセンター試験の問題に触れる:9
毎年最新の問題で演習したい人:5
教科書・傍用問題集の代表的な問題を網羅した程度の生徒さんで、まずはセンター7割安定レベルに到達したい人のための演習書として、筆者は数あるセンター対策本の中でこのシリーズを最も評価している。選題・分量的もそこそこだが、なにより解説が充実しており、熟読することで中級者だけでなく上級者にも得るものが多いからだ。
中でも目を引くのが「これぞセンター流解法!」という囲み記事だが、ただ単に場当たり的なテクニックを並べているだけでなく、「視覚的解法」(図を描く)「空欄との対話」などのように体系化(?)させてまとめてあり面白い。こういった部分「だけ」にスポットを当てた裏ワザ本のようなものもあるが、そのあたりのバランスをうまくとり、また共存させている作り手に敬服する。センター対策だけでなく、教科書レベル・入試基礎レベルの確認をしながら様々な事項・解法に触れる本として、このシリーズを幅広い皆さんに役立ててもらいたい。
あえて難を言えば、表紙カバーだけを見れば毎年毎年新しい問題を差し替えて編集し直されているように見えるが、本当は何年かに1度しか本冊部分が改訂されていない点。さすがに、これだけの内容の本冊を毎年作り直すのは無理のようだ。06年度に発売された「07年度版」は、旧課程時代に新課程のセンター試験の出題を予想して作られたであろう前年度(以前)の版と同じ本冊が使われていた(使い回し?)。そういった部分を補完するため、巻頭に別冊として最新のセンター試験の過去問を1年分と傾向と対策について述べた冊子を挟み込んでいるが、これで不十分と感じる受験生には他書を薦めるしかない。プラスに考えれば、のちのち取り組むであろう最近出題された問題との「かぶり」がほぼない状態で分野別の演習ができるわけなのだが・・・
それでも、08年度版では巻頭の冊子「傾向と対策」に07年度のセンター試験の問題用紙の余白に計算や図を書き込んだ「答案例」が付け足されるなど、作り手の熱意は十分に伝わってくる。少々余談になるが、この「答案例」の手法は旧課程時代に発売されていた「くろ田のセンター数学」(河合出版)からあったのだが、別名の新課程対応版では影を潜めていたものだ。それが「勝てる!」の別冊で復活(?)をとげ、さらにその流れが旺文社の過去問集「予備校講師はこう解く!」(→
http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/782.html)につながったと考えると(もちろん筆者の超個人的な見方ではあるが)大変感慨深くもあったりする。
【基礎知識】
単問を通じて教科書内容の確認ができ、分野別にセンター試験の過去問演習ができる問題集。年度版で、巻頭に別冊として挟まるセンター試験の傾向分析、それに最新1年のセンター試験の問題の部分は毎年変わるが、本冊部分の問題が差し替えられ新しいものになるのは数年に1度のペースなので、古本で過年度版が安く手に入るなら、それらを利用してもよい。07年度に発売された08年度版からは、現課程のセンター試験の出題形式に即している。
本冊部分は出題分野ごとの章に分かれ、各章の前半には基本事項のまとめと「基本編」として過去問を単問に仕立て直した問題が並ぶ。そのあとの「実戦編」では過去問の大問をそのまま扱っているが、問題ごとに制限時間が書かれていて、難易度を見極める助けとしている。さらに、巻末には2回分の「新作予想模試テスト」が収録されていて、力試しも出来るようになっている。解説面では、主に別冊の解答の解説部分に囲みで挿入された「重要ポイント」「これぞセンター流解法」が特徴的。
【リンク】
※14年受験用T・A/U・B,13年受験用T・A/U・B
※07年6月12日執筆分等をもとに随時加筆修正
【雑感】
このような作り方の本があるということを、筆者は、就職活動をする大学生向けの適性試験や面接の対策問題集のレビュー本を読んで知った。その本に書かれているとおりに「勝てる!」のカバーをめくって本冊の表紙を見てみると「○○年」の文字はないし、本の発行された日付は、本冊でなくカバーの裏見返しにしか印刷されていない。出版社の立場に立つと、こうしておけばその年に印刷して余った分も来年分に使い回すことができる。
受験生の皆さんが有効に活用するぶんには、あまり細かいことを気にしないでもらいたいが、受験生の皆さんには参考書選びを含めた受験勉強を通じていろいろなことを知って欲しいという筆者の願いがあるので、あえてこのようなかたちでふれさせていただいた。