丁寧な解説で網羅性も高い講義調導入書。板書のような紙面構成が特徴
「坂田アキラ(/志田晶)の数学が面白いほどわかる本」シリーズ(中経出版)
【評価】※1〜10の10段階
総合:10
学校の授業の復習を短期間でしたい人:8
数学アレルギーの人が使う「劇薬」的用途:10
真面目な人:1
板書のような紙面と独特の軽妙な語り口で人気のシリーズ。カテゴリーとしては「分野別の講義調参考書」の部類に入るのだろうが、丁寧にかみくだくというよりは「テンポを作り出す」ために話し言葉を使っているという感じで、扱っている例題も総合参考書(網羅系)のような選題で、レベル的には決して低くない。独学者(未習内容の先取りを含む)はもちろん、苦手分野のフォロー、基本事項を短期間で見直すなど幅広い用途が考えられる。この本だけで入試の基礎とよばれるレベルまではカバーできるが、内容が定着しているかどうかの力だめしなど、演習量を他書で補う必要性はもちろんあるだろう。
著者は、革命的講義で人気を博する予備校講師の坂田アキラ先生。表紙カバーの顔写真を見る限り「イロモノ」的印象が強いが、他教科も含めた日本の参考書執筆者の中で、今の受験生が参考書に何を求めているか、最もよく分かっているひとりだと、筆者(水野)は勝手に思っている。
難点があるとすれば、読む者を圧倒する独特の紙面構成。慣れる・・・というよりこれを受け入れられないと、読むこと自体が苦痛になってしまう。必要な情報だけを拾い読みすることを前提としているであろうから、真面目に全部の文章を読もうとすると負担になるので、そこは注意してほしい。さらに、空いた箇所に描き込んである「落書き」のようなキャラクターは著者本人の直筆だろうか?「暗いイメージのある受験勉強には遊び心が欠かせないんだ!」という人にはいいだろうが、このへんの感性が合わない人には絶対におすすめしない。
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以下、「坂田アキラの面白いほど〜」シリーズ(中経出版)に関する記事へのリンク、寸評をまとめておく。一部分野に関しては志田晶先生が執筆されているが、対象レベルはほぼ同じで、初学者を意識した手厚いフォローはそのままに、坂田先生独特の「くどさ」は和らげた構成と考えてよい。
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坂田アキラの医療看護系入試数学T・Aが面白いほどわかる本
紙面構成はシリーズ中最もシンプルだが、テンポ良く進めていける。以前に文英堂から発売されていた本に基本事項のフォローを加えたもの。
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坂田アキラの2次関数が面白いほどわかる本
本格的な受験勉強を始めるにあたり、他分野との融合の多い超重要分野の足固めに。網羅性・到達点ともにやや高め。
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日本一わかりやすい 坂田アキラの三角比・平面図形が面白いほどとける本
現課程センター試験での扱われ方を意識した構成で、三角比が主、平面図形は「おまけ」的扱い。2次で平面図形を出題する大学の志望者には向かないので、当該レベルまでの対策本と割り切って使いたい。
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日本一わかりやすい 坂田アキラの確率が面白いほどとける本
教科書から入試基礎までに手厚い導入。勘違いや誤答の例を多く示すなど苦手な人への配慮が感じられる。
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日本一わかりやすい 坂田アキラの図形と方程式が面白いほどとける本
苦手な人がつまずくポイントがまちまちな分野ではあるが、概観を得るための1つのきっかけに。
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坂田アキラの三角関数が面白いほどわかる本
旧課程時代「指数・対数」と合冊だった名残か、シリーズの他の本に比べて若干薄い。
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坂田アキラの数Uの微分積分が面白いほどわかる本
教科書に忠実な配列で、レベルも適当だが、解説は基本事項の繰り返しが多い。
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坂田アキラの数列が面白いほどわかる本
数式を言葉に翻訳するところが重要なこの分野に見通しを与えてくれる良書。やや複雑な漸化式まで扱うなど到達点は高め。
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志田晶のベクトルが面白いほどわかる本
※ 基本事項の導入が中心であるが、早めに図形への応用に触れられる
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坂田アキラの数Vの微分・積分[極限・微分編]が面白いほどわかる本
もちろんその丁寧さは高く評価するが、ある意味このスタイルの限界も感じさせる。至る所で同じ基本事項の繰り返しになってしまう。
○坂田アキラの数Vの微分・積分[積分編]が面白いほどわかる本
※ 極限・微分編」と概ね同じ評価
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志田晶の行列・1次変換・2次曲線が面白いほどわかる本
※ 教科書のような導入が多く丁寧な印象を受けるが、到達点は高め
【基礎知識】
板書のような紙面構成に特徴のある、分野別の講義調導入書。講義調でありながら網羅性も高いのが最大の特徴で、苦手分野を中心にいきなり総合参考書(網羅系)に取り組むには抵抗があるという人が、補助的に使うことを想定している。
1冊は20程度の「テーマ」(講)に分かれていて、各講は、基本事項の導入→「例題」数題とその解説というスタイルで統一されている。例題1題の解説に多くのページ数を割いているが、ただ答案が長いだけでなく、まず「ナイスな導入」(思考や計算過程を追いながら流れを説明)があって、それから「解答でござる」(答案の横から矢印で使った公式などのポイント解説)という2段構えの解説になっているのが特徴的。全部読んでもいいし、必要な箇所だけ読んでもいい。
著者である坂田アキラ先生は看護医療系の専門予備校の講師だが、有名予備校にも出講している模様。志田晶先生が執筆されている本(分野)についても、導入書でありながら到達点も高いという点で共通していて、同じニュアンスで使える。
※08年1月5日執筆分より随時加筆修正