「オリジナル」「スタンダード」「4STEP」「クリアー」(数研出版)や「ニュークオリティ」(東京書籍)に代表される、主に学校で教科書と一緒に渡されることが多い問題集を総称して傍用(ぼうよう)問題集といいます(詳しくは下の【注】参照)。生徒さんの状況や授業の進め方(演習量・到達レベルなど)に合わせたり、もしくは担当者の授業のしやすさや好みなども考えて、たいへん多くの中から選ばれています。到達度は本(またはその使い方)によってもさまざまですが、教科書レベルの計算練習・演習には本来最適であり、しっかりやれば入試レベルへの橋渡しにもなります。
この手の本は学校の授業で使われる(もしくは課題に出される)ことを前提として作られていて、自学自習を前提に評価を云々することは本来間違いなのですが、掲示板で皆さんのご質問を受けていると、そうも言っていられないことが少なからずあるようです。傍用問題集に対して皆さんが不安・不満を持つ場合、それはおおよそ次のようなものだと推測できます。もちろんこの分類は筆者の少ない経験によるもので、分けにくいもの、複数の要素がからむものもあります。ただし、「学校で習った先生が嫌いだった」などのような、教材以外の要因とは区別して考えさせてください。
$ 1)解答がついていないので(略解のみなので)自分で使えない
$ 2)しっかりやった自覚はあるが、どの程度まで力がついたか分からない
$ 3)授業で扱われなかったところをやりたいが、手が出せない
$ 4)苦手分野などの復習をしたいが、どこから手をつけていいか分からない
今では1)の「解答がついていない」はあまり聞かなくなりましたが、少し前まではよくありました。実は筆者自身が高校生のときも同じめにあっていて、そのときに立ち読みした受験本(タイトルは忘れました)で「教科書や傍用問題集は授業が終わったら捨ててしまえ」といった極端なアドバイスが書かれていたのを鵜呑みにしかけた記憶があります。今もこの言葉どおりではないと思いたいですが、あまりにも使いにくい教材は無視せざるを得ないでしょう。
たとえば「オリジナル」「スタンダード」のように、渡されている本に別冊解答がそもそも付かないものもあります。また、本冊と別冊解答がバラ売りになっているものもあり、それらに関しては学校が生徒用を購入していない可能性もあります。もしくは、購入はしているが学校もしくは指導者の方針で授業が終わるまで配布しないことにしているなど、さまざまな事情があるようです。どうしても解答が欲しいなら、担当者や学校にどうなっているかたずねてみて、望む対応をしてもらえないならばあきらめた方がよいかも知れません。
代わりの教材としては、市販の問題集で詳しい解答がついているものが必要になります。ただし、すべてのレベルに対応したものがあるわけではないので、まずは初歩の問題・計算問題に絞って、
○「カルキュール[基礎力・計算力アップ問題集]」(駿台文庫)
→
http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/45.html
などで練習を積むことをすすめます。とくに、教科書と傍用問題集以外は上級の参考書(教科書レベルの完成を前提としたもの)しか持っていないという人は、必ずこの部分を補うようにしてください。講義調の導入書や初〜中級の網羅系参考書があればそれらで代用することもできますが、そのときも、問題集が使えないことで最も影響を受ける「演習量」という部分は常に意識するようにします(例題の下の練習問題に時間をかけるなど)。
2)の「到達度がわからない」という悩みに対してもなるほどと思います。皆さんにとって傍用問題集は唯一絶対(?)のもの。複数の本を使い分けることはおろか、見比べる機会もないはずだからです。そういう場合、この手の本に関するちょっとした情報の不足が指導者側の想像できない不安につながることもあるので、筆者に分かる範囲で補っておきます。多くの問題集では「A」「B」「発展」「演習問題」などの大まかなランク分けがされていますが、おおよそ「A」が教科書本文レベル、「B」が教科書節末・章末〜入試の基礎。中級の参考書で「教科書学習と並行して取り組むべき例題」として収録されているレベルと重なります。
よって、かなり大雑把な言い方ですが、傍用問題集を終えたあと上級の参考書もしくは入試レベルの演習書に無理なくつなげていこうと思えば、やはり「B」までは理解しておかないといけないでしょう。逆に言えば、そのレベルまで授業でしっかり扱ってもらえなければ、初〜中級の参考書で例題・練習を解いて、そのギャップを自分で埋める必要があるということです。
「発展」や「演習問題」、または「種々の問題」などと銘打たれた問題になると、もし解答を持っていたとしても、自力で理解するのは難しい問題になっていきますから、何問かに1問なら理解できなくても仕方ないと思ってください。また、こういった枠の問題の難易度は本によってかなり違ってくることにも注意してください。
3)の「授業で扱われない問題が独習できない」についても対応はほぼ同じで、要は傍用問題集の「つくり」を理解したうえで、解説の足りないところは参考書・演習書で補っていけばいいわけです。学校で上級の参考書を渡されている場合は、前述の「カルキュール」の使用も考えて欲しいですが、参考書を増やす場合はおそらく中級のものになると思います。こと傍用問題集との相性でいくと、使い方は考えなくてはなりませんが
○「ニューアクションβ」(東京書籍)
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http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/149.html
がやはり最適ではないでしょうか。傍用問題集側で「A」「B」等の扱いになっている問題はほぼ網羅されていて、さらに「例題」の文字が赤(教科書と並行して取り組むべき)と黒(教科書学習が終わってから取り組むべき)の問題に分かれているので、問題集を解いていてつまずいたときに、解けなかった問題の類題とその解法を探し、同時にその位置付けを知りながら学習していくことができます。さらに「例題」の下にある反復問題(「練習」)まで解けば、演習量的にも十分になるでしょう。
さて、最後の4)「復習に使いにくい」ですが、これに関しては筆者の持論があります。傍用問題集の、とくに「A」の問題の一部には、教科書の配列に合わせて、用語の確認などをさせたり、問題を特定の方法に沿って解かせたりする問題が含まれます。たとえば2次方程式の解の公式を覚えてしまえば、因数分解できないものはほぼ解の公式で解くようになるでしょう。ところが、解の公式を導く前に教科書では平方完成を用いて解く方法を説明し、実際にそれらの練習もしたりするので、傍用問題集にもそういう部分に対応した問題が収録されるわけです。
このような問題は、授業を受けたあとすぐに宿題としてやる場合は単なる繰り返しになりますから容易に解けますが、あとになって、とくに教科書を見ずに解こうとすると、問題の意味が読み取れなかったり、特定の解法が指定されていることに戸惑ってしまったりして、不要な「つまずき」のもとになります。このような問題のことを、筆者は「教科書依存問題」と呼ぶことにしました。
そこで、傍用問題集の復習をする際は、最初から全部やるのではなくあえて「B」の問題から入ることをおすすめしておきます(ただし、学校の授業で「B」まで扱ってもらっている場合に限ります)。「B」の問題でつまずきが分かれば、教科書を参照したり、「A」から類題を探してやり直したりしてから、もういちど解けなかった問題に戻って解き直すとよいでしょう。もし、「A」のレベルからしてすでにあやしいのであれば、仕方がないので何か導入向けの本を増やすしかなくなるわけですが、それは「復習」とは言いません。「再導入」です。逆に言えば、こうならないためにも、教科書学習時にまずは「A」の問題だけでも確実にし、余力のある限り「B」の問題にくらいついていって欲しいわけです。
最後に、自学自習にも使いやすい傍用問題集について、こちら(→
http://green.ap.teacup.com/reviewermizuno/580.html)にまとめておきましたので、ご覧ください。もちろん別冊解答も渡されている場合に限りますが、学校でこれらの本を指定されている場合はラッキーだと思って、授業が終わったあとも継続して使っていくようにしましょう。本の良し悪しも確かにありますが、それよりも使い慣れた本で学習することが何よりですから。
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【注】傍用問題集(ぼうようもんだいしゅう)について
『傍』の字は「傍観者」などの語で目にしますが、訓読みでは「かたわ(ら)」と読みます。つまり傍用問題集とは、教科書等の傍らに置いて日常的に使うことを目的とした問題集のこと。ほとんどが、教科書を出版している会社が自社の教科書向けに作っているものです。さらに細かい話をすれば、特定の教科書に準拠したものとそうでないものがあり、前書きを読むと大抵その旨が書かれています。
また、表紙やタイトル、紙面構成などは似ているのですが、「スタンダード数学演習 数学T・U・A・B 受験編」(数研出版)などのように、教科書学習を終えたあとの入試対策授業(演習授業)で使うことを想定した問題集もありますが、これらは傍用問題集とは言いません。多くの本のタイトルに「受験編」とあることから「受験編問題集」と呼ぶ人もいますが、(同じ学校内や学年内では通じても)一般にはあまり通じないようです。