「万一さん」の「十八番」
「『ピンセット医者』の話し」
この話しの「真偽」のほどは、誰にも分りません。
ただ一人、「万一さん」だけが知っています。
「万一さん」とは、「若かりし頃」に何かと「お世話」になった先輩の「お名前」です。
普段は「親しみ」を込めて、「万ちゃん」と呼んでいました。
「万ちゃん」の特技ときたら、「類い稀なる」・・・・「笑いの話術師」と言ったところでした。
「万ちゃん」が
「あのせー(あのなー)」
と言っただけで、周りの人々は「笑いを堪え」、「次ぎの一句」を松のですから・・。
「万一さん」のお仕事は、
その当時の、「酪農振興」に「関連した仕事」なら「何でも」・・・、
と言っても、過言ではなかったのです。
なにしろ、
「自ら牛を飼育」していますから、「畜産農家」であり、
「牛の人工授精師」の資格を有し
「酪農工場の技師」として勤務し、
「酪農関連」の「団体」の「役員さま」に「名を連ね」。
その上、「部落の住民」に推されての「市会の議員先生」・・
なにしろ、「万ちゃん」の好きなものといえば・・「人(女)」との「コミニケーション」であり、人々との「語らい」となります。
とりわけ「お酒」には・・「目がない」のです。
ですから、この界隈(郡の領域)では、「超有名人」でした。
さて、「万ちゃん」の当時の「口癖」の一つですが・・
その当時の「知事さん」の「お名前」が、「千一さん」でした。
そこで「万ちゃん」・・酔っ払うと、
「ワー(我)は『万』だ・・知事といえども『千一』だべね・・、ワーの『弟分』みたいなもんだべセー」
「万ちゃん」のご両親は、「いい名前」を授けたものです。
その「万ちゃん」の「十八番」が、
「ピンセット医者」
なのです。
・・・・・・・・・
さて、時代は「1960年頃」の「お話し」ですから・・
大分「カビ」が生えています。
「万ちゃん」は「語り」ます。
「街」はずれのナ、「お辺ちの集落」・・分かてるべ・・
そこに「オミヨ」と言う「娘っ子」がいたのセ・・・。
「ダダちゃ(父親)」は、早くに戦争に持ってがレテ・・その挙句・・
命まで捧げ申したのセ・・。
この「娘っ子」・・、17・8(才)だども、偉くベッピンなんだとセ・・。
部落の男ども・・・「うるさくなって・・、ハァ・・困ってまうのセ・・」
ある夏の日のことダ・・
何時もだったら、早くに起きて「朝のマンマ(ご飯)」作りをしているのに、
その日はまだ 「起きてこねエ・・」のセ・・。
「かァー(母親)」は、「かァー」で、
「ゆんべ(夕べ〕」は「村」の「神社のお祭り」、若い衆が集まっての「盆踊り」・・・・ 「オミヨ」も遅くまで楽しんで来たようだすナ・・・。
「祭り」に出かける時も
「いつも」より・・なにか楽しそうにして・・出かけたのです。
「かァさま・・行って来るへんで・・」
何時もの、何倍も「声が弾んで」いたのです。
「夜」の帰りの時だって・・。
「夜」もかなり更けて
「オミヨ」が静かに「戸を開けて」入ってきました。
「かァさま、寝たが・・かァさま・・」
「かァさま」は「夜」も襲いし・・
なによりも・・ 楽しかった「オミヨ」を・・そのままにしておきたかったのです。
咄嗟に、「寝たふり」をしていました。
「オミヨ」は「何ぼか楽しかった」のか・・
寝床についても暫らく「眠れない」様子でした。
「かァさま」は何時でも・・、
「オミヨ」の奴「何時も、なんにも愉しみもなくて・・」
時には「他の娘達」のように、
「街に遊びに行って来ォ・・」
と言うのですが、
「ワーは、百姓仕事が好きなはんて・・」
と言うばかり・・・です。
そんな「オミヨ」ですから・・・
「こんにゃ(今夜)は、何ぼか・・良い事が・・あったンだか・・・」
そのように思うだけで、
「かァさま」まで、
「よがった・・よがったごど・・」
と、嬉しくなるのです。
それにしても
「遅いじゃー」
「オミヨ・・そろそろ起きてマンマ けェー(ご飯食べてー)」
ところが「オミヨ」の奴、「もぞもぞ」しながら
「かァさま・・『腸』が出はってら・・」
と言うのです。
「腸・・・?、『ゴンジョ(五臓六腑)』のが・・・?」
「ウンだ・・」
「どこがら出はってらド・・」
「アソコがら・・」
「エエ、あそご・・」
「ウン」
「痛でがァ・・」
「痛くネ」
「どれ・・見せろ・・・」
「かァさま」は、「オミヨ」のアソコに「顔を押し付けて」見ました。
「ほンに・・そんだ(そうだ)・・」
「かァさま」は「ビっクリ」しました。
急いで「納屋」から「リヤカー」を引っ張り出しました。
「リヤカー」に「布団」を敷いて、「オミヨ」を乗せました。
「村の診療所」までヒト走りでした。
診療所に着いた「かァさま」は、
「先生さま『娘のアソコ』がら腸が出はってますタ・・」
「お医者さん」も「ビックリ」です。
「どれどれ、ここに横になって・・」
暫らく眺めていた「お医者さん」、
「ははー、これが・・なるほどなるほど・・ゆんべは遅くまでお祭りで・・楽しがったべ・・・」
「オミヨ」は
「・・ウン・・」
と顔を赤らめて「頷きました」。
「お医者さん」は「生真面目」な顔で・
「ピンセット」
と、「看護婦さん」に命じました。
「看護婦さん」が、「お医者様」に「ピンセット」を渡しました。
「お医者さん」は、「オミヨ」のアソコから「チョイ」と、「腸」を引っ張りだしました。
そして厳かに言いました、
「『お母さん』・・『腸』でなくて『これだ』・・・」
「ピンセット」の先には、「魚の浮き袋」のような「白いもの」・・・が「ブラり」と下がっていました。
「ハイ・・治ったがらなー」
「村の診療所」の「お医者さん」が、
「ピンセット医者」と呼ばれて、「評判になった」のは・・これからだとか・・。
・・・・・・・・・
これが、「万一さん」の「十八番」でした。
そして、「酒」が入ると、いつでも「みんな」を喜ばせていたものです。

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