2007/12/8

「そんなのいやっ!」  彼と彼女の風景
彼女の声が、ちょうどBGMの途切れたファミリーレストランの隅々にまで届いた。
夕方6時を少し回った店内は、家族連れでほとんど満員状態だ。

声の主を捜そうと皆の視線が集まるのと同期するかのように、彼女はテーブルに突っ伏して泣き始めた。
彼女の向かいでは彼がソファに浅く腰掛け背をもたれて、斜め上を見上げている。両手はブルゾンのポケットの中だ。

彼の目が右に動き、ゆっくりと店内を見渡し始めた。彼と目が合った家族連れはあわてて目を逸らし、自分たちの会話を再開する。彼の目が右から左に動くにつれ、それぞれのテーブルで次々と同じ状況が繰り返されていく。

左隅の席にいる中年の婦人が目を逸らし、夫と何か話し始めたのを見届けてから、彼はブルゾンから出した右手でテーブルの上にあるグラスを持ち上げ、少しだけ残っていた水を飲み干した。ゆっくりとグラスを戻したあと、彼はしばらく彼女を見つめていた。

再び流れ始めたBGMが2コーラス程過ぎて、彼女から目を上げた向こう側から、数冊のメニューを抱えた若いウエートレスがじっとこちらを見ているのに気付いた。5秒程ウエートレスと目を合わせた彼は、不意に唇の端に笑みを浮かべた。

笑みの真意を計りかねているウエートレスと彼との間で、彼女はまだ肩を震わせていた。

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