2008/9/15

「またカレー?」  彼と彼女の風景
12時30分を少し回った学食で、唐突に声をかけられた。
大きな口を開けて食べた直後なので、彼は左手を上げて答えるくらいしかできなかった。

「ひょっとして毎日カレーばっかりなの?」
口の中のカレーを片付けてから、彼は答えた。
「違う、と言っても似たようなもんかな? 月水金と1日おきだよ」
向かいの椅子に腰掛けながら彼女が尋ねた。
「そんなにカレーが好きなの?」
「そう言うわけじゃないけど、昼食は栄養とコストパフォーマンスからこれに落ち着いたんだ。一人暮らしだと、どうしても食事が偏るし」
「そうね、私も一人暮らしになってみて初めて母親のありがたみが分かったわ」

ひと呼吸置いてから彼女が続けた。
「ところで、今度の日曜日は暇?」
「あぁ、暇だけど、何?」
「渋谷に買い物に行きたいんだけど、つきあってくれない?」
「俺とか? 一緒にいく女の子とかいないのかよ。まさかまだ友達ができなかったりして...」
「友達は何人もできたんだけど、みんな自宅から通ってるお嬢様たちばっかりで、私とはお財布の中身が全然違う人たちなんで、お買い物となるとちょっと問題なのよね」
「なるほど、それでカレーばっかり食べている庶民派の俺が選ばれたわけか」
「まぁそんな所。つきあってくれる?」
「買いに行くのは洋服か?」
「そう、だいぶ涼しくなってきたから秋冬物を仕入れに行こうと思って」
「うーん... 一緒に行くとすると、例えば君が試着しているときなんか、俺は一人全然似合わない店の中で居心地悪そうに待っていたりしなくちゃいけないわけだ」
「確かにそうかもね。でも、そこを何とかお願い。お昼ご飯くらいおごるからさぁ」
その言葉で、乗り気でなかった彼の顔に笑みが浮かんだ。
「しょうがない、引き受けた」
「何だかしょうがないっていうより『待ってました』って思えるけど...」
彼女も笑いながら答えた。

彼が残りのカレーを食べてる間に、彼女はバッグの中から携帯を取り出した。
「じゃあ出発の時間とか決めたらメールするから、アドレス教えて」
「おう」
彼は腰に付けたポーチから携帯を出し、メールアドレスを交換した。
「たぶん9時くらいに駅で待ち合わせになると思うけど、詳しいことは土曜日にでもまたメールするね」
「よし、分かった。でも...」
「でも... 何?」
「二人で渋谷を歩いていたりすると、カップルと思われちゃったりするかも。クラスメートに会ったとして、俺はいいけど大丈夫か?」
その言葉に彼女は声を上げて笑い出した。
「大丈夫よ、ナンパされないように頼んだ用心棒ってことにしておくから」
「そうか、ならいいや。俺の考え過ぎだな」
「でも、用心棒なんだから変なことしないでよね」
その言葉に二人とも笑顔になった。

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