初めてのテント生活の夜が明けた。州道には大型トラックや、乗用車等がたまに走るくらいで静かで閑散としている。鳥のさえずりと虫の音がしんしんと響く。
ニューメキシコ州等の内陸部は、昼夜の寒暖差が激しく、昼間は摂氏35度以上を越える事も茶飯事だが、夜になるとめっきり冷え込む。
山並みから登る朝日を拝み、昨晩食べきれなかったハンバーガーとフルーツを食べて腹ごしらえをすませる。
テントを撤収して、サンタフェへ。
宮沢りえの写真集でおなじみのサンタフェは、中西部のなかでもとりわけ人気の観光地で、多くの芸術家達が創作活動の拠点としているのだとか。
サンタフェにいく道すがら、ニューメキシコ大学のある、アルバカーキという街へと立ち寄る。
大学の校内にて洗顔と歯磨き、着替えをすませた。が、校内と思って入った所はなんと教会だったのだ。あさの礼拝でにぎわうひとびとのなか、申し訳ないおももちで去る。
車に乗り込んで2時間ほどでサンタフェに到着。毎週日曜日には街の中心部の広場でフリーマーケットが行われているようで、とてもにぎわっている。ネイティブアメリカンによるアクセサリーのほか、タペストリーや、はたまた牛の頭骸骨までもが売りに出されている。
街中をひととおりめぐり、相棒たくちゃんとアドビ建築で有名なホテルへと出向く。
独特の形状の建物はなぜか、ミステリアスな魅力が漂っている。
柔らかなカーブ場の角のとれた建物はまるで絵本の世界のようだ。
さらに時間をかけて街を見ておきたかったのだが、どうやら強い日差しのせいで少しぐったりしてしまった。
夕暮れ時に、サンタフェを去り、1時間ほど車を走らせて、温泉へと向かう。
『オホ カリエンテ』とよばれる温泉は、まるで湯治場のごとく、びっくりするほどの山奥にひそんでいた。
語学学校の先生に『いいところよ!』とすすめられて、数少ないアメリカの銭湯へとむかった。
水着を無料で貸し出してくれ、おおよそ7.8種類の温泉を楽しむ事が出来る。
浮き輪をつけて、プールのような温泉でふわふわ浮遊していたのだが、あいにくセラミとハラミのせいで浮き輪が抜けず、私をまちつづけていた相棒たくちゃんを熱い温泉の中で放置プレーしてしまった。
これがいけなかったのか、たくちゃんを温泉でのぼせさせてしまい、この後たいへんなことになる。
さて、温泉にゆっくりつかり、サウナで汗をひととおりながした我々は今夜のテントをはる場所をさがしに車を走らせる。深夜の道にはまったく街灯が無くやがて、ごつごつと舗装されていない険しい道へとさしかかってしまった。
ロストしたのか?
と一瞬ためらったが、ひとまずナビゲーションにたよって車を走らせる。
タオス近くまでさしかかった山道付近にリオグランデ川が流れている。もしかしたらキャンプ場がちかくにあるかも。
何のたよりもなくおそるおそる車を走らせて行くと、キャンピングカーがとまっているのを発見。
もしや、テントが張れるかも!と期待をし、ロケハンに取りかかる。
すると、キャンピングカーから挙動不審なわれわれを怪しんでいるだろう女性が出て来て、懐中電灯で顔を照らされた。
『What are you doing here?』(なにやってんの?)
と訪ねられた私たちは
『We are looking for the place to stay tonight 』(今夜寝る場所をさがしているんだ)
と応える。
どうやら、そのキャンプ場はテントを張るにはふさわしくないほどの傾斜がかかっており、0.2マイルほど先を右折した所に平らでいい所があるよ、と言い残した。
再び車を走らせて、彼女の言っていた場所へとありつく。
だだっ広い広場があり、そこにテントを張る事にした。
またしても何も無い山奥。
ひっそりとした夜空には満点の星空と、虫達の音色が鳴り響いていたのでした。

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