「中央線のほうが早いのに、どうして総武線で行くの?」
「こっちのほうが情緒がある気がするから・・・。」
休日に浮かれて買い物に急ぐ私を、彼は彼らしい選択をしながら柔らかく笑う。
私がこの暖かさに包まれて、もうすぐ三年になる。
もともと、持ち合わせていたものが似ていたのか、最初から二人で居ることが自然だった。
彼の異常なチョコレート好きの部分を抜かせば、食事の好みも同じだったし
歩いていて「これ、いいね。」と、どちらかが言うものはお互いほとんど頷いた。
今日は彼の服を買いに、中野から少し歩いたところにある店に向かった。
中野という土地柄を少し微妙にも思うが、この店はかなり気に入っていた。
裁縫のラインや色の出し方など、細かい部分に和風の施しがかけてあり
その「よく見ると、カッコイイ」が、そそった。
彼の新潟産とは思えぬ、顔の濃さがよく引き立った。
家路に帰る途中、初台の商店街にあるラーメン屋に入る。
今の場所に引越ししてから、ラーメンといえばここだった。
旦那さんが厨房の湯気の中で作ったラーメンを、とても感じの良い奥さんが運んでくれる。
昔はクィーンがBGMだったが、今日はエルビスだった。
決して大きな店ではないので、御夫婦の愛情レベルが敏感に伝わってくる。
今日はとても円満で、少しほっとする。
家に帰り、暴々茶という食べすぎ用の中国茶をいれる。
「食べたら眠くなる。」その本能に忠実に従いそうな彼を横目で見つつ、もう一杯。
彼はとても真っ直ぐな人だと思う。
穏やかさの中に色々な情熱や、渦のような激しさを持っている。
誰の横でギターを弾いていても、彼はその人の気持ちと身体に寄り添っている。
彼が放たれる場所、そこにギターがあってくれて良かった。
心から日々、そう想う。
今日を終える前に、もう一仕事。
だいぶ伸びてしまった彼の髪を切る。
いつからかキッチンに新聞紙を広げ、円山美容室を営業している。
もちろん、私に何の免許も経歴もないが、彼の都合の良いクセっ毛のおかげで
それなりに繁盛している。
今日は、カラーもした。
怪しげな金髪が、ワイルドなロック兄さんにも、白タイツのニセ王子にも見える。
・・・とりあえず、カッコイイ。
誰もが思うだろうが、休日の時間はとても早く流れる。
彼を囲む、沢山の人の目に彼はどう映っているのだろう。
彼はとても寛大な人だと思う。
大抵のことは、ゆっくり理解をしながら受け入れてくれる。
けれど、強い信念を持っている。その中心はいつも暖かい。
どうぞ彼の感情の全てを注ぎ込んだ音を聞いてください。
今日もまたこうして眠れる幸せ。
隣から見た、彼の一日。

ただただ、ありがとう。僕は幸せ者です。

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