・菊池良生『戦うハプスブルク家』(講談社現代新書)
・菊池良生『神聖ローマ帝国』(講談社現代新書)
最近この二冊を読んで、ドイツ三十年戦争が「宗教戦争」というよりも、
もっと世俗的な側面の強い闘争だったんだということがよくわかった。
当時の人も、代々のヨーロッパ人もその「宗教戦争」の側面をともすれば
強調してきたのは、《国家同士の争いは国家が自らとその国民の生存のために
必要と見なし、最善を尽くそうとするところから生じるのであって、道義的な
正邪は関係ない》という考え方に人が慣れ始めたのがごく最近のことであるからだろう。
「宗旨と宗旨の妥協なきぶつかり合いだった」という説明がないと、三十年の
戦禍の大きさとまともに向き合うのが恐ろしすぎたのだろう。
「あれは互いに譲れない戦いだから(なぜなら、宗教つまり人間の生き方を
規定するもっとも基本的なものについてだからだ)仕方なかったのだ」と思い
たかったのだ。そうすることによってヨーロッパ人たちは、カトリック(「因循姑息」)も
プロテスタント(「わからずや」)も、自陣の、また互いの、大量の死を、
「不幸だったが(譲れないことだったんだから)仕方なかった。双方が信念の
ために最善を尽くしたのだ。戦いが残虐なものだったとしても、その時代の
制約と限界がそうさせたのだ」と思ってあきらめることができたのだ。
...それにしても日本の高校世界史教科書、さっぱりわけわからんよな。
ドイツを中心にしてるようにしか見えない国にどうして「神聖ローマ帝国」
という名前がついてるのかとか、マトモな説明がない。ただひたすら年号・
人名・事件名の羅列で、「偏向」してるしてない以前にヒドイ悪文なのだ。
いくら受験のために必要だからって、一年で人類の誕生から9.11まで
行こうとすればどうしてもそうなっちまう。
それでいて、権力とか国家とかが人民を抑圧する悪のシステムである、って
ことだけは要所要所でほのめかすんだから、みんなよほどエンゲルスが好きなんだな。
それでも日本の場合幸いなのは、学校教育を補ったり修正したりするための
材料は、その気になりゃあいくらでも探し出してきて読むことができることだ。
また、それを読む力が国民にまだある。
政治家や新聞記者は忙しすぎて本読むヒマがろくに取れないってことはありうるが...。
もしかしたらいま日本最高の読書家集団は2ちゃんねらかもしれんよ。

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