みなさんは御存知だろうか。
あのピノッキオの生みの親、
ゼペット爺さんは「ズラ」だったのである!!金髪のズラなのである!!嗚呼、もう何も信じられません!!
しかし、今回取り上げるのは『ピノッキオ』ではなくて『ドラキュラ』である。あるのだが、
ゼペット爺さんの件を頭の隅に留めて以下をお読みいただきたい。
「小説の中の食いもの描写」シリーズの第7回:
ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』Dracula(平井呈一訳、創元推理文庫所収)。
平井訳がどっか行ってしまってどういうわけだか手元にペンギン版の原書しかないので、以下これによって記述する。
主人公の一人、ロンドンの不動産会社社員ジョナサン・ハーカーは、
ロンドンに家を買いたいと言っているトランシルバニアの伯爵(ドラキュラさんです)と、細かい契約内容をじかに面談して詰めるために東欧に旅行する。
彼はこの旅に、当時としては最新鋭機器だった
蝋管録音機を携えて行く。帝政ロシア当局によって
流刑にされたポーランド人ピウスツキがこれによって樺太アイヌ語の記録をしたので有名なところの「蝋の鶯」(鮎川哲也の−だったと思う−表現)、声の日記として後々重要な役割を果たす。
はずなのだが、アレ!?平井訳ではたしかに蝋管とあったハズが、ナゼか今手元にある原書では「速記(shorthand)による」とある!?どういうわけやい?ものがものだけに薄気味が悪い。単なる
バージョン違いか?が、まあそれはいい−
そのときジョナサンは、オーストリアからハンガリー、ルーマニア(当時オスマン・トルコ支配下)方面で、東欧とトルコ風の混じった文化・風俗についていろいろ記録している。
その中にあるのが
真っ赤な唐辛子のきいた鶏料理《パプリカ・ヘンデル》。
茄子の挽肉詰め《インプレタータ》、
トウモロコシの粉を練って作った《ママリガ》。
これらは多くのファンの興味を今も惹いているようで、Web上には再現レシピの載ったブログが複数ある。
原文より−
'paprika hendl': a chicken done up some way with red pepper, which was very good but thirsty.
(赤唐辛子をきかせた鶏肉。うまいがのどが渇く)
'impletata': egg-plant stuffed with forcemeat.
'mamaliga': a sort of porridgeof maize flour.
(トウモロコシの粉で造った粥のようなもの)
最初のはドイツ語か。次の二つはルーマニア語だろう。Mamaligaはすべてのaの上にbreve(カップ∪状の補助記号)が付く。鈴木信吾・鈴木エレナ『CDエクスプレスルーマニア語』(白水社)によると、mamaligaとは「とうもろこし粉を熱湯で練りあげた料理」といい、粥というよりプディングのようなものであるようだ。Googleでイメージ検索してもそんな感じだ。
そうだとするとmamaligaはイタリアのpolentaというものに似ているのではないかと思う。やはりトウモロコシの粉を練り上げた、プディング状のもののようだ。
で、そのpolentaをトスカーナの方言でpolendinaと呼ぶ、と言うのであるが、このPolendinaこそ、
ゼペット爺さんの渾名だったのだ。
Pinocchioの原文をみてみよう(第2章)。
..., il quale aveva nome Geppetto; ma i ragazzi del vicinato, quando lo volevano far montare su tutte le furie, lo chiamavano col soprannome di Polendina, a motivo della sua parrucca gialla, che somigliava moltissimo alla polendina di granturco.
(...その名をジェッペット[Giuseppeの愛称。ただし稀な用法だそうだ]という。しかしながら、近隣の若い衆は、からかって怒らせようと思ったときは「ポレンディーナ」と呼んだものだ。それは彼の黄色い[つまり、金髪の]カツラから来たもので、そのカツラなるものがトウモロコシ粉のプディングすなわちポレンディーナによく似ていたからだ−桃李庵主人訳)
Parrucca gialla(黄色いカツラ)。
本件被考証人ゼペツト翁ニ於イテ人工鬘佩用者タルコトヲ本官ノ立証セルコト以上ノ如クデアリ、疑問ノ余地ハコレ無キモノト信ズ。
さて、ドラキュラの件に戻るが−
ジョナサン・ハーカーは幽閉されるが幸い咬まれることはなかった。伯爵としては不動産屋との交渉上生かしておく必要があって、「不死人」にしてしまうのは具合が悪かったのだ。
で、有名なオランダ人医師
アブラハム・ヴァン・ヘルシング教授がこの作品で登場する。
この人の吸血鬼退治は原作では
かなりえぐい。吸血鬼(不死人the Undead)になった屍体の
口の中にニンニク詰め込んで、首を切り落としちゃうんだよw

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