◆ABS特選落語会〜其の四〜 立川志らく・立川談笑二人会(1月24日・秋田県児童会館)
前座 立川らく兵「初天神」
立川談笑「時そば」〜「金明竹」
立川志らく「らくだ」
秋田市で志らく・談笑二人会。いいことである。何がいいことだって、
談志本人が来ないのがいい。
この前談志が来秋したのは『朝日さわやか寄席』。「権助提灯」はさすがに上手かった。しかしエンジンがかかるのが遅く、さんざっぱら夫婦論だの文明論だのながーいマクラを述べたてたが客の反応は今ひとつ(文明とは悪循環である、という談志のテーゼの例に出してきたのは《庭でキンモクセイの花が咲いて香りが立ちこめたのを、トイレの消臭剤と間違えた本末転倒》−という、『あたしンち』レベルのエピソードだった)。しかも言うに事欠いて「秋田の酒は料理に使うにはいい[が、飲んで旨いというほどのものではないの意]」とイジったが純情な秋田っ子相手にこれは洒落にならず客はドン引きw俺も笑ってなんかやらないw
あまりにも客が反発して引いたので、最後のサゲの後で「いや、秋田のお酒はおいしいですよ・・・」と天下の談志がフォローしなければならなかった。田舎者恐るべしw
客を暴言でイジるのは信者とマニアにしか通用しない。普段落語なんか聞かない客がわざわざ足を運んできた会場ではまったくウケないのだ。
秋田は新宿駅西口の地下ではない。
芸のわからない田舎者、とか言ってみてもダメだ。
その田舎者相手の会で金を取ってるプロなんじゃないか。
オ・ゴ・ル・コ・ト・ナ・カ・レw
さて、本題。
志らくの「らくだ」。
くず屋の久蔵が、「らくだ」こと「馬」に、地面に描いた絵を買えと言われていじめられる場面。持って帰れと言われて土を掻き集める。しまいに爪が剥がれて血が滲む。
これは志の輔も演るが、志の輔はもっとさらっと流し、むしろくず屋の内に秘めた怒りを表現するのに、こちらはいじめられる者の描写をしつこくした上、それを「指さして笑う子供たち」まで登場させ、あまつさえ「はぶんちょ」(仲間はずれ)にされることを恐れたくず屋の小せがれがその中にいて、一緒に笑わざるを得ない(心で泣いている)・・・というところまでとことん演るもんだから満場その哀れさと陰惨さに凍り付いてしまった。
こんな演出考えついた談志って本当に嫌な性格の奴だな。(「三軒長屋」でもそうだった。上は役付ばかりだからと下で手伝いに回る鳶の若い者に、鳶頭の姐さんが「お前も下の奴ができたら同じ事をすりゃいいんだよ」−志ん朝はそんな陰湿なセリフ決して言わせなかった)
だが今回志らくの「らくだ」には発見があった。
前半は
談志の完コピ(声まで談志そっくり。むしろモノマネ)だったが、くず屋が酔っぱらってくるあたりから、談志でも先代可楽でもなく、
どんどん志ん朝の口調になっていったのだ。
これは文章プロファイリングでいうhidden confessionというやつではないか。
志らくのdeeper intelligenceが無意識に語っていること。それは、
《談志の「らくだ」は陰惨すぎて自分も客もついていけない。”朝サマ”[志ん朝の愛称]が正解なんだ》
ってことだ。もっというと、
《業の肯定とかイリュージョンとか、落語はそういうリクツではない。志ん朝のような、理屈抜きに誰からも愛される噺家になりたい》
ってことだ。
【今週の結論】談志家元は一刻も早く死んでください。

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