◆森鴎外『渋江抽斎』(中公文庫)
むつかしいことばを使ってるのに、文章のリズムがいいのでトクをしてる人というのがいる。
森鴎外こそその人である。
『渋江抽斎』(中公文庫版)を例にとって、どんだけ小むつかしいか、実例を見てみよう。
「親昵(しんじつ)して、ほとんど兄弟(けいてい)のごとくに遇せられた」(その十一)
親しくつきあって、ほとんど兄弟同然の扱いだったと。
「その茶碗の底の余瀝を指に承けて」(その十一)
茶碗の底に残った茶のしずくを指にたらしたのな。たったそんだけのことをヨレキって林太郎おめえやりすぎw
「啓沃の功も少くなかったらしい」(その十一)
啓はひらく。沃はみずみずしいことだがここでは沃土のことであろう。開拓したのか、国を発展させたのか、そんなことだろう。
「そばで嬉戯するのを見て」(その十二)
きゃっきゃって言って遊ぶのをみて、なw
「年歯をもって論ずれば」(その十三)
年齢ということで言えば、ね。「歯」によわい(齢)の意味がある。例)「幼歯」(「ロリ」を意味する中国語)。
「偏僻の治法を斥けた」(その十五)
○○はこれに限る、とかいうこだわりを持たずに、個々の症例をみて適した治療法なら何でも採用した、んだろうな。
「久闊を叙した」(その十六)
御無沙汰しておりますって言った、んだろうな。
「漫罵の癖(へき)がある」(その二十三)
なんでもかんでもやたらにケチ付ける悪い癖があると。その程度のことなら初めからそう書けよw
「遜色あるを見ない」(その二十三)
別に劣っているようには思われないと。
「よくこれを遵行するものは少い」(その四十六)
そのルールをちゃんと守る人は少ないと。
「商業を廃して間暇を得た」(その百十三)
廃業したらヒマができたと。たったそんだけのことをよくこんなに重厚に書けるよなw
全編こんなんです。
いかがでしょうか。
肩凝りましたか。それとも、いっそのこと笑って楽しむつもりになっていただけたでしょうか。
こういうのはですね、「おいおいw」っていいながらなごやかに笑って読むのが吉ですよw自分なりにテキトーに
「オレに平たく言わせるとバージョン」に訳しながら。
いや、じっさい、そういう遊び方してたから、渋江なる人物が何者で、何をどうしたのか、さっぱり頭に入っていないんだ。スマヌ。
しかし、真面目な話、
声に出して読むとこれ、実にいいリズムの文章なんだよ。範としよう。

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