本の腰巻きの文句は重要だ。これを見て、買うかどうかの秤がどっち側に傾くか決まることだってある。マンガはセロハンがかかっていることが多いからなおさらだ。
そして腰巻きはそれ自体が面白いのだ。秀逸な要約あり、トンチンカンな紹介あり。トンチンカンである理由もいろいろで、担当者がやる気がなかった場合もあるだろうし、著者の代弁をしないといけないのに、腰巻きのライターが自己主張してしまった場合というのもある。
そういった腰巻きのいろいろを、新旧とりまぜて紹介していこうと思う。
センスのいいものはほめ、カンチガイしてるものはツッコみ、時には本文読んでなくても腰巻きだけでレビューしたりさえ、してしまおう。
・西原理恵子『営業ものがたり』(小学館、初版平成17年11月20日付)
サイバラ、生涯の最高傑作、「うつくしいのはら」収録!!
「うつくしいのはら」は、文盲から抜け出すことが幸福への道である、と親に教わり、自らも信じながら、戦火に巻き込まれていく薄幸な数世代の東南アジア某国人一家の話。しかしこれ、「生涯の最高傑作」ってほどのもんかよ?「はれた日には学校をやすんで」みたいな、叙情というかぬるい反体制ポエムだろ、これ。サイバラが時々思い出したように描くやつ。
このオビは、
ルサンチマンおやぢが「自分にとってのサイバラ」を他の読者に押しつけてる例です。
こういう奴に限って、『毎日かあさん』で没になった(ネットで公開。その後単行本には収録)「(自分は)悪くない」と言い張る娘のバックに「
北朝鮮」の文字のあるネタはスルーしちまうんじゃねえか。『噂の真相』で覆面座談会してた編集者たちにもよくいたよな。勝手にサイバラを左翼の味方扱いして、勝手に持ち上げたり勝手に反体制色があせてるって困惑したりおろおろしたりしてんの。
・小林登志子『シュメル−人類最古の文明』(中公新書、初版平成17年10月25日付)
「日本人が書いたメソポタミア文明の本はいくつもありますが、シュメル文明だけを単独に扱った本は珍しいことです。ぜひ、ご一読をお奨めします」三笠宮崇仁
誰が推薦文を書くかが、その本が信用されるかどうかの決め手になることがある。これはその成功例。一も二もなく購入を決定いたすますた。
ちなみに、失敗例は『萱野茂のアイヌ語辞典』(三省堂、1996)です。推薦文を寄せたのは
本多勝一で、日本のアイヌ政策をナチスドイツのホロコーストになぞらえています。96年当時
「電波ゆんゆん」という言葉はまだありませんでしたが、もしあったらそう言われていたはずです。
しかし、中公新書はいつも副題に凝りますな。
『中国、一九〇〇年−義和団運動の光芒』
『クレムリン秘密文書は語る−闇の日ソ関係史』
『関ヶ原合戦−戦国の一番長い日』
『信長軍の司令官−武将たちの出世競争』
『日露戦争史−20世紀最初の大国間戦争』
といった具合。秀逸なものの例としては:
『アメリカ海兵隊−
非営利組織の自己革新』
どうです、軍事に関心のない人でも思わず手にとってみたくなるでしょう。
逆に、バカな例:
『ナチズム−ドイツ保守主義の系譜』
ナチズムは「保守」でないどころか、復古的でも何でもないのだから常識的な意味で「右翼」ですらありませんよ。「急進的な反共主義」ではあるけどね。だから実際、それこそ保守主義者、鉄鋼業界の大物とかが思い違いしたわけだよ、自分らの味方だって。

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