Basil Cottle:
The Penguin Dictionary of Surnames(私の持っているのは1978年の第2版。その後さらに改訂されたはずだが、未入手)から、アイルランド(1890年)、スコットランド(1958年)、イングランド及びウェールズ(1853年)の、それぞれ上位30位の「多い姓」を抽出してみた(大本のデータそのものは参照できなかったため、孫引きとなる)。
Ireland in 1890 Scotland in 1958 England & Wales in 1853
1 Murphy Smith Smith
2 Kelly(O-) Brown Jones(ウェールズ1位)
3 Sullivan(O-) McDonald Williams
4 Walsh(e) Thom(p)son Taylor
5 Smith Wilson Davies
6 O’Brien Stewart Brown
7 Byrne(O-) Campbell Thomas
8 Ryan(O-) Robertson Evans
9 Connor(O-) Anderson Roberts
10 O’Neill Johnston Johnson
11 Reilly(O-) Miller Wilson
12 Doyle Murray Robinson
13 McCarthy Scott Wright
14 Gallagher Reid Wood
15 Doherty Clark(e) Thompson
16 Kennedy McKenzie Hall
17 Lynch Pat(t)erson Green(e)
18 Murray Taylor Walker
19 Quinn(O-) McKay Hughes
20 Moore McLean Edwards
21 McLaughlin Young Lewis
22 Carroll Ross White
23 Connolly Walker Turner
24 Daly Mitchell Jackson
25 Connell(O-) Watson Hill
26 Wilson Morrison Harris
27 Dunne(O-) McLeod Clark
28 Brennan(O-/Mc-) Fraser Cooper
29 Burke Henderson Harrison
30 Collins Gray Ward
英本国と全く違うのは当然だが、スコットランドと較べてもケルト系の人名が上位のほとんどを占めている点が大きく異なる。日頃(特にアメリカ人名の中に)よく見かけるものが多いが、多くはゲール語起源なのである。ゲルマン系の名前としては5位のSmithが目立つぐらいだが、これはイングランド系とは限らない。Smithつまり「鍛冶屋」を意味する別の姓から英国風に改名したものが多数含まれているものと思われる。アイルランドならば、Goff(e)[スコットランドのGow、コーンウォールのAngove(anは定冠詞のなごり)に対応する。]が元の姓かもしれない。スコットランドの場合はGowの他、Caird(職人の意)もSmithに合流した可能性がある。
22位のCarrollはO'Carrollの可能性があり、だとすると元はO Cearbhaillで、やはりゲール人名であろう。
英語化(anglicize)した形はたとえO-/Mc-人名でもかなり元のゲール名とはかけ離れる。
The Oxford History of Irelandの索引に載っている人名から挙げてみると、例えばこうだ(括弧内の数字は1890年の調査でのランキング)。
O'Sullivan(3)←O Suilleabhain
O'Byrne(7)←O Broin
O'Connor(9)←O Conchobhair
O'Reilly(11)←O Raighilligh
MacCarthy(13)←MacCarthaigh
O'Daly(24)←O Dalaigh
O'Donnell(44)←O Domhnaill
MacMahon(64)←MacMathghamhna
O'Rourke(98)←O Ruaire
中にはMcNamara、O'Moynihan、McMenaman、O'Monaghan、McKenna、O'Shaughnessyなど、みるからにエキゾチックなものもあるが、多くは英語にとけこむ形になっている。
アイルランドにはノルマン系の(つまり、フランスから来て英国を征服した人々の子孫の)姓というのもあって、Burke(29)、Fitzgerald(36)、Fitzpatrick(61)などのFitz-の付く名前(ラテン語のfilus、フランス語のfilsと関係がある。息子の意)、Costello、Cusack、Dillonといったものがそれだ。『フランス革命に関する省察』のエドマンド・バークはアイルランド人(ただし、プロテスタント系)である。
このほかよく見かけるアイルランド系の姓には、(O)Nolan(40)、(O)Callaghan(43)、Mahoney(46)、(O)Boyle(47)、(O)Moran(56)、(O)Regan(66)、(O)Donovan(67)、(Mc)Mullan(70)、(O)Sheehan(77)、McKenna(88)、(O)Keeffe(92)、McNamara(94)、ランキング外だが(O)Driscoll、(O)Mulligan、Desmond、(O)Riordan、O'Hara、O'Toole、(O)Donaghue、(O)Moriarty、Duncanといったものがある。
Walsh(e)(4)はWelsh(ウェールズ人)と同源で英語系の姓だが、「ケルト人、外国人」の意。つまりこの苗字、まんま「エビスさん」なわけだ。アングロサクソン族は、自分たちの方が侵入者なのに、先住民を「外人」呼ばわりしたわけです。Walnut(クルミ)はwealh-hnutu(外国人の・木の実)の意。エゾが食う実だっていうんですよ、どうですかみなさんw。
細かい考察は稿を改めてのこととするが、ここではとにかく、英国とアメリカの有名人や有名企業、フィクションの中の登場人物名などの中に、いかにアイルランド人(とスコットランド人)が入り込んでいるかを読者諸兄に実感していただければ十分だ。こうしたことはアイルランド人が英国の支配の下で困窮したり没落したりしたために、英本国やアメリカに大量に流出していったことの現れでもある。

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