2014/8/29

ワシの季節感  episode
以前、「タカの季節感」と題して、「鷹渡る」や「鷹柱」は秋の季語、「鷹」や「鷹狩り」は冬の季語であるとご紹介しました。では「鷲」はどうなんだろうと気になって調べたら、これも冬の季語でした。
鷲の俳句を探してみると、有名どころでは高浜虚子の次の句がありました。
大鷲の 嘴(はし)にありたる ぬけ毛かな
オオワシがカモか何かを捕え、羽根をむしって食べた後、羽毛の一部がクチバシに付いているところを詠んだのでしょう。リアルというか、生々しいというか、「客観写生」を唱えた虚子らしい句です。
それにしても、こんなディテールは肉眼では見えないはずで、双眼鏡か望遠鏡で観察したのではないでしょうか。ということは、虚子はバーダーだったのかも知れません。
下の動画の後半はオオワシがカイツブリを捕獲し、食べ終わったところ。クチバシに羽毛は付いていませんが、爪は血で赤くなっています。
虚子の句を盗作すると
大鷲の 爪にありたる 血糊かな

    

ところで、「大鷲」や「尾白鷲」は冬鳥なので冬の季語というのは理解できるのですが、「犬鷲」も冬の季語だそうです。イヌワシは留鳥なので、バードウォッチャーには納得しにくい季語です。
ところが、高浜虚子の師匠である正岡子規は次の句を詠んでいます。
鷲の子の 兎をつかむ 霰(あられ)かな
この句の季語は「鷲」ではなく「霰」とのこと。ウサギを捕食するのはイヌワシでしょうから、子規はイヌワシを冬の季語とは考えていなかったことになります。
俳句のルールをよく知りませんが、詠む人によって季語が違うこともあるのでしょうか。



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2014/8/27

タカの季節感  episode
初夢のベスト3は「一富士、二鷹、三なすび」とされていますが、その由来について、徳川家康が富士山と鷹狩りと初物のナスを好んだからという説があるそうです。
この「鷹狩り」は俳句の季語では冬。鷹狩りは主に冬に行われたからのようです。
どういうわけか、「鷹」そのものも冬の季語。オオタカもハイタカも1年中いますが、冬になると里に出てくることが多いからでしょうか。
あるいは、冬になると農地や河川敷に現れるノスリがそうさせたのかも知れません。私もこの冬、ノスリを何度も観察することができました。

    

「鷹」や「鷹狩り」が冬の季語である一方、「鷹渡る」や「鷹柱」は秋の季語になっています。
鷹を季語にした俳句はたくさんあります。例えば、芭蕉の次の一句。
鷹ひとつ 見つけてうれし いらこ崎
芭蕉が弟子を訪ねて渥美半島の村へ行ったときに詠んだものです。バードウォッチャーなら秋のタカの渡りで有名な伊良湖岬を思い起こすはず。
ところが、これが詠まれたのは貞享4年(1687年)11月12日、新暦では12月中旬頃。芭蕉は冬の季語として「鷹」を使っていて、秋の渡りのタカを詠んだわけではないのです。
話はさらにややこしくなりますが、芭蕉は西行法師の次の短歌に触発されて詠んでいます。
巣鷹渡る 伊良胡が崎を疑ひて なほ木に帰る山がへりかな
「巣鷹」はヒナのときに捕えた鷹、「山がへり」は2歳以降に捕えた鷹。西行は、「伊良湖の海を2羽の鷹に渡らせようとしたところ、1羽は渡ったのに、もう1羽は木に止まったまま渡ろうとしない」という地元民の話を聞いてこの歌を詠んだそうです。
つまり、西行の短歌は秋の渡りのタカを、芭蕉の俳句は冬のタカを詠んでいるわけです。種類で言えば、西行が詠んだのはサシバかハチクマ、ノスリの可能性もあります。一方、芭蕉が詠んだのはノスリかオオタカ、チュウヒ、あるいはクマタカかも知れません。
いずれにしても、俳句に出てくるタカの季節感は、私たちの感覚と違うようです。



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2014/8/25

オーデュボンの祈り  books
鳥類史上最も多く生息した鳥が絶滅する…。そんな悪夢がアメリカで現実になりました。
鳥の名前はリョコウバト。北米・東海岸に生息し、中部やメキシコ湾岸で越冬するハトで、18世紀には50億羽いたと推測されています。
アメリカの鳥類学者であり画家でもあるオーデュボンは、その渡りを目撃し「空を覆い尽くすような群れが3日間途切れることなく飛び続けた」と日記に記しているそうです。

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オーデュボンが描いたリョコウバトの絵(パブリックドメイン)

その夥しい数の鳥が絶滅した原因は乱獲。肉が美味だったことから食糧として大量に捕獲されたほか、羽根布団の材料にも使われたようです。
1890年代には数が激減。保護が試みられたものの手遅れで、1914年に動物園で飼育されていた個体(名前はマーサ)が死亡し、リョコウバトは絶滅しました。

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最後の1羽となったリョコウバト「マーサ」(パブリックドメイン)

この悲劇を題材にして日本の作家が小説を書いています。そのタイトルが『オーデュボンの祈り』、著者は伊坂幸太郎。第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、映画にもなっています。小説の中では以下のように記されています。
ジョン・ジェームズ・オーデュボンはケンタッキー州で、リョコウバトが渡っていくのを見つけた。一八一三年だった。
空は鳩で日食のように暗くなった。翼の音が絶えず鳴っていて、聞いているうちに眠くなった、と彼は記している。
大量の糞を撒き散らしながら飛ぶ、絨毯のような偉大なる鳩の群れ、オーデュボンはリョコウバトに感動する。三日間、リョコウバトは彼の頭上を飛び続けていった。

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この小説をひとことで言うとファンタジック・ミステリー。リョコウバトが日本の離島に逃げてきて、人間に復讐を仕掛けるという伏線があります。登場人物の一人が、上掲のオーデュボンの絵のコピーを大切に持っていたりもします。
「あまりにも数が多すぎた。数が多いことが人を鈍感にしたんだ。いくら虐殺しても絶滅につながるとは思えるわけがなかった。おそらくオーデュボンだって、リョコウバトが消えるとは予想していなかっただろう」
作者は愛鳥家ではないようですが、登場人物にそう語らせています。日本にもトキやコウノトリのように、昔はたくさんいたのに乱獲や環境破壊のために絶滅した鳥がいます。現在のツバメやスズメのような身近な鳥でも、私たちが鈍感であれば絶滅することはあり得るわけです。



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2014/8/22

婦唱夫随  episode
巨椋干拓田でタマシギが繁殖しました。ご存知のように、この鳥はかなり変わっていて、一妻多夫である上に、メスは子育てせずオスだけが子どもの世話をします。
一妻多夫でオス親のみが子育てする鳥はタマシギのほかにアメリカイソシギとアメリカレンカクなどがいるそうですが、タマシギがこの2種と違うのは雌雄別色であること。しかも、他の雌雄別色の鳥とは逆に、メスが派手、オスが地味。こんな鳥は世界中を探しても他にいないでしょう。

南西諸島に生息するミフウズラも一妻多夫・オス親のみの子育て・雌雄別色ですが、図鑑で見る限りオスとメスの色の差はそれほど顕著ではありません。
タマシギの雌雄逆転は行動にも表れていて、メスが主導的に動き、オスはその後に従うという「婦唱夫随」型。下の動画の最後のシーンでも、近くにいたオオジシギを威嚇するのはメスです。

    

雌雄の役割がなぜ逆転したのか、気になって調べてみましたが、よく分かりません。いくつか仮設があるようですが、まだ決着していないようです。
オス親のみが子育てする一夫一妻の鳥もいて、ニュージーランドの国鳥キウィもこのタイプ。タマシギ、ミフウズラ、アメリカイソシギ、アメリカレンカク、キウィに共通するのは、歩行性と地上営巣。飛ぶよりも歩く方が得意で、巣も地上に作ります。

もう一つの共通点は早成性。つまり、ヒナの生育が早いこと。これらの要因が複雑にからみあって、タマシギみたいな変わった鳥が生まれたのでしょう。
タマシギのオスの「婦唱夫随」行動を見て、「同病相哀れむ」気持ちになる恐妻家バーダーも多いのではないでしょうか(笑)。



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2014/8/20

夜空の鳥  episode
星座には鳥の名前がついたものがいくつかあります。例えば、白鳥座は9月下旬にほぼ真上に見える5個の星で、十字形のため「南十字星」に対して「北十字星」と呼びます。

この白鳥座について、約20年前の出来事を思い出します。鳥の少ない夏の催しとして、当支部主催で「スターウォッチングの会」を開催しました。その案内文に「白鳥も見られます」と書いたところ、何人かの方が本物のハクチョウが見られると思って参加されたのです。
担当者には「ハクチョウは冬鳥だから夏の、しかも夜には見られるわけがない」という常識があるのでレトリックでそう表現しのですが、そんなことを知らない一般の人は「野鳥の会のイベントだから星のついでにハクチョウも見せてくれるだろう」と期待されたようです。事情を説明するとガッカリされていました。

          野生のハクチョウは冬しか見られませんよ〜

9月には南の空に鷲座が見られます。1等星のアルタイルは七夕の「彦星」。ギリシャ神話では、全能の神ゼウスが化けたオオワシとされているそうです。
5月の南の空に現れるのは烏座。これにもギリシャ神話が絡んでいて、このカラスは銀の翼を持っていて人の言葉を話したものの、嘘をついたため翼は黒く、ただ「カーカー」と鳴くようにされたといいます。

このほか鶴座、鳩座、さらに日本ではほとんど見えない孔雀座、風鳥座、巨嘴座、鳳凰座もあるとのこと。夜の空にもいろんな鳥が飛んでいるんですね。



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