2006年に入って最初の東京出張があった。
昼までに翌日分のケーキを作り、昼過ぎに出かけた。
店からまず最寄りの地下鉄駅までバスで10分くらいかかる。バスが来て驚いた。混んでいる。とりあえずなんとか乗れた。が、次のバス停でもまた4人くらい待っていた。
無理やろ……。
と思った瞬間、運転手さんがマイクをつかんだ。
「満員なので通過します」
バス停で乗る気マンマンで一歩踏み出したおばちゃんのあっけにとられた顔が見えた。
そーかー…バスって混んでたら通過してもいいの?朝の時間帯でこれくらいの混み方って結構あったと思うんだけどなあ。
最寄りの地下鉄駅から名古屋駅まで30分。名古屋駅にあと3駅というところで不覚にも眠りこんでしまったらしい。目がさめたら、妙にガラ〜ンとしていた。誰が見ても(あの人乗り過ごしたのね〜)とわかってしまう程のあわてぶりでバタバタ降りた。名古屋駅を2駅も過ぎていた。
今晩の予定は、取引先とではなく、大事な友達とのゴハン。
いつもコメントをくれるヒーちゃんとカズさんと会うのだ。お土産を持って行こう。迷った末有名ドコロのえびせんにした。
新幹線ではいつも二人掛けの窓際をとるようにしている。のだが、今回は少し後悔した。通路側におばあちゃんが座っていた。全くシートも倒さずテーブルを出してお弁当を食べている。おまけにテーブルの下には機内持ち込み可サイズのトランクがきっちり置いてある。
鉄壁の守りだ。
「あのー……」おそるおそる声をかけると、おばあちゃんはお弁当を膝に置き、テーブルを戻して「どうぞ」と言った。おばあちゃんの足元には横40cm×高さ60cmのトランクがある。
「えっとー……」しばらく待ったが、おばあちゃんはそのまま動かない。そーかそーかトランクはこのままかよ!
ガッバー!と、またいで差しあげた。
途中おばあちゃんがトイレにたったので、チャンスを逃さず私もトイレに行った。が、彼女の目的はトイレではなかったようで、私が席に戻ったらおばあちゃんはなぜか通路に立っていた。(待っててくれたんだな)と思い「すいませーん」と座ろうとすると、おばあちゃんはあわてて「すいません!」と言って席についた。
………。なんで先に座るの?アンタ。
仕方ないのでまたガバーッとまたいだ。
東京に着き、一仕事した後、ホテルにチェックインすべく都営浅草線に乗った。なぜか人ごみの中にぽっかり空間があいていた。
また変な人が乗ってるのかなあ。酔っぱらいかなー。そのわりには静かだなあ。と思いながら、なにげにソコに近づいてみた。
席に靴下があった。
ソックス、というより靴下というのがピッタリだ。
オカンがたたむよーなくるりっとひとまとめにした靴下。黒い靴下。
どうしても画像が撮りたかった。人が降りるのを待ってなんとか撮った。
気がついたら目的地の五反田駅を通り過ぎたところだった。
ホテルにチェックインして荷物だけ置き、あわてて約束の恵比寿に向かった。山手線の車中で気がついた。
お土産に、とわざわざ買ったえびせんを持って来ていない。なんのために私はえびせんを買ったのか?なんのために一日持って歩いたのか?
負けた……。
何にだかわからないが、そんな気になった。
画像は、怪しまれつつ撮った黒靴下。


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