ウチのいちばん若い常連さん、といえばアヤカちゃんだろう。
アヤカちゃんはサーヤにそっくりな推定1歳の女子である。
チビノリダーに似たパパとほんわかした雰囲気のママと一緒に来てくれる。ママに言わせるとアヤカちゃんはウチが好きなんだそうだ。
アヤカちゃんはいつもの席に座るとまず、059の姿を探す。
059が手を振るとにんまりと笑う。
いつも家族三人で来てくれるのだが、今回は平日だったこともあってママとアヤカちゃんの二人だった。
他に何組かお客さんがいて、ケーキも焼いていたりして、なかなか忙しい時だった。いつもみたいにアヤカちゃんに愛想が振りまけなかった。
「………ヴヴ…ヴェ…」あ!アヤカちゃんがぐずりだした。ヤバい!
オーイ!!
カウンターのこっち側から059と二人で手を振った。
「…ウキャキャキャ!」…あ〜笑った笑った。…ふう。
その後しばらくはケーキを食べておとなしくしているようだった。
だがふと見るとアヤカちゃんがこっちを見ている。ちょうど手が空いていた時だったので、ちょっとしゃがんでからピョコッと顔を出す、という、いないいないばあ、をしてみた。
「…ウキャキャキャ!」嬉しそうだ。もう一回やってみる。
「ウ〜キャキャキャキャ!」すっごく嬉しそうだ。
しゃがんでいる時にアヤカちゃんの様子を伺うと、すごく真剣な顔でキョロキョロしている。ばあ!顔を出すとにんまりと笑う。
そのうちアヤカちゃんがこっちに向かって歩いて来てしまった。
ママもついてくる。
「ホントにこのコ、ココが好きで」
「え〜そーいうの、あるんですか?こんな小さいのに」
「あるんですよ、好きなお店とか」
そう言いながらママがアヤカちゃんを抱き上げてカウンター越しに私たちに向かった。私たちがアヤカちゃんに手を振る度ににんまり笑う。
………。にんまり。
………。にんまり。
え〜っと……。
私たちは一体ナニを期待されているのだろう。
一通り世間話もしてしまったし、あと一体ナニを話せばよいのだ?
が、ママは気にすることもないようでアヤカちゃんを抱っこしたまま立っている。アヤカちゃんは私たちを見てはにんまりしている。
……。
仕方ないので、また手を振ったりして。
長いこと、なんとも言えない時間が流れた。
ママにしてみれば、私たちが見えなくなるとアヤカちゃんがぐするので仕方ないということもあっただろうが、私たちにはなかなか厳しい時間だった。
ママは自分からは一切話題をふらず、にこにこしている。
とりあえずみんなアヤカちゃんの動向を伺っている。
その後も私のやることをマネして、顔を隠していないいないばあもどきをするアヤカちゃん。ばあ、の時に、にんまり。
ワガママでウルサイ子供は大嫌いだが、アヤカちゃんだとついつい相手をしてしまう甘々な私たちなのであった。
あの「にんまり」には勝てないのだった。
だが、こんなに長いこと一緒に遊んだのに、帰るとなるとあっさり後ろも見ずにスタスタ出て行くのはいかがなものか。
バイバイくらい言ってくれよ。

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