展示会に行くと必ず商談するスペースがある。サンプルを見たあとで、ここに座って営業担当者と商談をするのだ。
ほとんどの場合テーブルにお菓子が載っている。たいていはよくある輸入菓子。私はあまりそーいうのが得意じゃないのでほとんど食べない。というか、食べてもらうために置いてあるわけじゃなく、単なるお飾りみたいなもんとして置いてあるのだろう。
だが先月行った展示会で妙にそのお茶うけを勧められた。
私とアカノちゃんの心のアイドル・フジモッサンのとこの展示会だ。残念ながらフジモッサンはウチの担当ではないので、今回は登場なし。
「どーですか!今回のお菓子は!」
妙に力が入っていたのはフクちゃんだった。フクちゃんもウチの担当じゃないのだが、お菓子担当だったらしい。
ごめんね、私、マカロン好きじゃないんだ。
「……エ〜〜〜!」
マカロンとはフランス菓子の一つで、メレンゲにアーモンド粉をさっくり混ぜて低温でじっくり焼いた軽めの焼き菓子だ。でも甘い。
私はケーキは作るが、甘いモノは苦手なのだ。おまけにアーモンドも嫌いだ。
「なんでですかぁ!食べて下さいよー。今回はすっごい力入れて選んだんですよ。マカロンですよー」
わかってるよ。
「ピエール・エルメですよー」
知ってるよ。
「なんだかー最近、ピエール・エルメがキテるっていうんで〜」
……ピエール・エルメがドコにキテルんだよ。てゆーか最近て!エルメもがっくりだ。
エルメのマカロン甘いし、私甘いの苦手なんだよ。
「あ!ちがうのありますよ!こっちの……ピスタチオのマカロン!」
……私、ナッツ系もダメなんだ。ピスタチオのマカロンなんてなおさらダメだわ。
「……マジですか〜〜〜」
フクちゃんは一生懸命オススメしてくれたのだが、その前に仕方なくケーキを食べていたこともあって、マカロンは無理だった。
そして先日、商品の件で電話をした時だった。電話を取ったのはフクちゃんだった。
「あ〜毎度ですー。もう最近なんだかパッとしなくて気分も滅入りがちなんですよ〜。ワタナベさん、盛り上げに来て下さいよ〜」
なんで私が。私なんか行ったって盛り上がんないよ。
「そんなことないですよー!」
え〜、だって無愛想だし。
「ははははは」
……フクダ、そこは否定するトコだろうが。
「今度の展示会のお菓子、何がいいですかねえ?こないだのマカロン、ワタナベさん食べてくれなかったじゃないですかー。何がいいですか?」
なんでもいいよ。っていうかさフクちゃん、お菓子担当なの?
「ちがうんですよー。誰も考えないから」
……それはなんでもいいからなんじゃないの?多分行く方もそんなに期待してないし、なくても気にしないよ。特に次って真夏でしょ?お菓子食べたいかなあ??
「問題はそこなんですよねー……」
フクちゃんとおやつ談義をしていたら、雑貨チームから緊急に電話を使いたいから早くデンワを切ってくれと言われてしまった。
フクちゃんごめん、電話使いたいんだって。また電話しまーす。
私は用事があって電話をしたはずなのに、担当者に変わってもらうこともないまま切ってしまった。これじゃあフクちゃんとおやつの話をするために電話したようなもんじゃないか。
フクちゃんはなぜ私に毎回おやつの話ばかりするのだ。
取引先なのに、仕事の話をしたことがないのはなぜだ?フクちゃんは仕事してるのか?
あ、フクちゃんも同じこと思ってたりして。
……ハハハ…まさかね。ハハハ……。

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