さあ,いっしょにサラダをつくろう

2004/12/17

■内藤くんと佐藤さん  ▼恋だの愛だの

 私は20歳の頃、イベント企画系の学生団体みたいなのに参加していた。札幌で初めての本格的なゴスペル講習会の開催とか、「氷点」の作者である三浦綾子さんの夫三浦光世さんの講演会とかを開催した。とにかく金のない団体だったが、人材とか人脈には恵まれていたので、面白そうなアイディアはどんどん実行していっていた。その頃の仲間でM田さんという男性がいた。彼は当時33歳で、そして非常におもしろい(=興味深い)方だった。

 M田さんは当時印刷会社に勤めており、後に独立をした。なので、コンサートなどを企画するとき、チケットやチラシのデザインや印刷などは全部M田さんにお願いをしていた。M田さんは背が高く細身で、どことなく女性的な雰囲気のある方で非常に動作や話し方がゆっくりだった。「トロい」という表現がぴったりなほど、全ての言動がゆっくりしていた。当たり前のごとく、私はM田さんが好きで(=おもろいから)とてもなついていた。M田さんには、腕を組み、右手で頬をなで、ちょっと身体を左に傾けて斜め45度を見ながらしゃべるという癖があった。話すときは必ずそのポーズだ。よく他のメンバーから真似をして遊ばれていた。M田さんはとても有能な方だったが、ときどき本気で周囲をズッコケさせるようなヌケた言動をすることがあった。会議でカレールーを鍋で差し入れしてくださったり(=しかも白米はない)、アイボリー色でお願いしていたチケットをなぜか黒色の用紙で作成したりした(=「黒の方がクールだ」という言い分だった,文字がほとんど見えなかった)。

 会議は大抵夜行われた。メンバーに社会人が混ざっていたためだ。皆、夕飯を食いながら会議を行う。私はかなり当初からM田さんの夕飯を食す姿に注目していた。そして「この人はかなり変わった人だな」という確信を得ていた。M田さんは、物を食べるとき、必ずA4サイズの紙などで自分の口元を隠しながら食事をした。右手の割り箸で焼き鮭を口にはこびつつ、左手でA4用紙を器用に操り物を咀嚼する口元を隠すのだ。一度、左手の用紙を床に落としたことがあるが、そのときいつもは見せないほどの素早い動きでイスから立ち上がり、そのまま会議室の物陰に身を隠してしまった。これにには他のメンバーもさすがに驚き、そのまま「M田さんが食事をする口元を他人から隠す理由」について議論が始まった。

 さんざん勝手な憶測で盛り上がったあと、渦中の人物であるM田さんに口元を隠す理由を直接うかがった。彼の言い分はこうだ。
人間は,生物的本能に基づく行為(=排泄・性交・睡眠など)は,基本的に全て「他者から隠れた状態」で行う.したがって,「食物摂取」という行為も他者から隠れた状態で行うべきである.
理由を聞けばなるほどな話しではある。なるほどではあるのだが、やはりこの言い分は周囲の爆笑を誘った。しかし、いたって真面目なM田さんは爆笑などもろともせず、こう続けた。「だから,小中学校の頃は給食を食べるたびに苦労しました」。

 そりゃ苦労もするだろう。大変なことだ。真面目な顔をして口元を隠しながら給食を食べるM田少年を想像すると、爆笑を通り越して気の毒心が沸き起こってくる。この日以降、私達メンバーは、夕飯の度に「人間の行う食事には,単なる栄養補給だけでなく,人間同士の円滑な交流を促す作用もあるのだ」というような話をするようになった。それから、各自が食事を済ませた後で、会議を開始するようにした。こうすれば、M田さんは皆から少し離れた場所で心置きなく食事ができる。これが功を奏したのかは分からないが、じょじょにM田さんは皆の前で普通に食事をするようになった。

 そんなある日の夜、会議を終えた私達は皆で和食レストランとん○んに行った。席に座って早々に、M田さんがメニューを見ながら「僕,ネギが大嫌いなんですよね」と、いかにネギが不味い食い物で自分に不快感をもたらすかを延々と語りだした。あまりにも熱意と説得力あるその言い分に、皆が「この人は本当にネギを憎んでいるのだな」と思い出した頃、店員が注文を取りにきた。M田さんはいつものゆっくりとした口調できっぱりと注文を言い放った。

僕,ネギトロ丼ください

おいーっ!!なんでネギトロ丼頼むんだー!!!と、読者の誰しもが心で叫んだはずだ。当然、このとき一緒にいたメンバーも皆ツッコんだ。

 ネギトロ丼が運ばれてくると、M田さんはこう宣言した。「僕はネギ嫌いを克服すべく,常にネギの入った料理を注文することで,自分を鍛錬しているんです」。そして彼はおもむろに箸を持ちネギトロ丼を一口食べた。そして「ううぅっ」と苦しそうにうめいた。そのままティッシュに口中のネギトロ丼を吐き出した。M田さんは大きくため息をついた後、「やはりだめでした」と残念そうにつぶやき、箸でネギトロ丼のネギを1つ1つつまみ出し始めた。当然のごとく、他のメンバーが無理やり料理を交換した。

 さて、それから1ヶ月近く経ち、私達はまた和食レストランとん○んに出かけた。席に座り、皆でM田さんのネギトロ丼事件でさんざんもりあがった後、注文をとりに店員がやってきた。M田さんはゆっくりと、そしてきっぱりと言いきった。

僕,ネギトロ丼ください

だあああっー!!もうやめんかいーおっさーんっ!!!と、読者の誰しもがムンクの叫びをかましたに違いない。私達も本気で別の注文に変えろと説得した。だが、M田さんの決意は固い。何といっても自己の鍛錬のためなのだ。ネギトロ丼が運ばれてきた。M田さんは一口食べ、「ううぅっ」とうめき、ティッシュに吐き出し、「やはりだめでした」とつぶやき、ネギをつまみ出し始め、他のメンバーが料理を交換した。想像通りだ。当たり前の結末だ。M田さんは真面目に落ち込んでいたが、私達としてはちょっと楽しかった。

 こうやって改めてエピソードを思い返すに、やはりM田さんは魅力的な人だった。”愛すべき人”とはM田さんのような方のことを言うのだろう。彼の行動は突飛なところがあるのだが、彼自身は本当に真剣に物事に向き合っているのだ。


 さて、ずいぶんと話が長くなったが、今日の記事タイトルは「内藤くんと佐藤さん」なのだ。これはもちろん「納豆と砂糖」のことだ。こちらの記事にあるコメント欄を見ていただきたい。北海道では、納豆に砂糖を入れて食べるのが一般的だ。誰が何といおうと一般的なのだ。私の祖父母も父も母も私自身も、納豆には砂糖をふりかけて食べる。方法はいたって簡単だ。
1)納豆一パックに対し,上白糖を大さじ1杯程度ふりかける(グラニュー糖は不可)
2)そこに醤油を大さじ2分の1ほどふりかける(多すぎるとダメ)
3)ぐりぐりまぜる
4)ご飯にかけてまぜまぜして食べる


本当に、本当に、本気で真面目に、北海道では納豆に砂糖を入れて食べる人が多い。特にご年配の方に多い。若い人は知らないかもしれない。ぜひ試してみていただきたい。別にいたって普通の味だ。おモチに砂糖醤油をかける食べ方があるが、あれの納豆バージョンだと思っていただければよいのだ。ぜひ。
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