
「司法官僚 裁判所の権力者たち」 新藤宗幸著(岩波新書)。
行政学の見地から,「司法における官僚制」という視点で分析を加え,提言をした一冊。
「官庁セクショナリズム」を読んだ後なので,その分析枠組みがよく分かる。
司法改革が言われて,裁判員制度が導入されたり,弁護士が増員されたり,法科大学院による養成システムができたりとそれなりにクローズアップされてきたが,司法官僚制についての改革は実はほとんど行われていない。
官僚制の弊害が言われて久しいが,司法も独特の官僚システムを有している。そういう部分にメスを入れた一冊。
最高裁事務総局が人事異動を含む人事権を握り(裁判官は,全国を転勤します),昇級についても支配しているという状況についてはこれまでも書かれてきたが,そういう部分を単なる闇として描くのではなく,一つのシステムとして描き出して改善を提案する本書の姿勢は,建設的だ。
国民にとっては,司法は最後の拠り所で,人生最大の博打をしかける場ともいえる。そんな真剣勝負の場を仕切る裁判官が自由に判断できない(あるいは何らかの制約を感じてしまう)状況があるとすれば,司法制度自身が機能不全に陥るだろう。
そういう意味で,政治的に干渉すべきという視点ではなく,司法をしっかり機能させるためにどうやって透明性を確保していくかという視点は不可欠だと思う。
本書での提言は,意外に穏当な範囲内にとどまる。裁判官の異動について高裁の管轄内にとどめるべきだとか,給与体系の刻みを少なくして昇級の時期も決めてしまうべきだとの部分は,そのままでも採用可能だろうと思う。
司法全体から見るならば,司法行政部門は,それこそ一部門にすぎないのだから,現状のような事務総局が実権を握っているような仕組みは抜本的に改善の必要があるだろうと思う。
現場の裁判官は,司法の独立を信じて誠実に職務にあたっていると思われるが,それを担保する仕組みを確保することは不可欠だ。
もちろん裁判官が市民の方を見ているのかとか,市民感覚を分かっているのかとかいう問題は残り,そちらはそちらで解決法を考えなくてはいけないけれど,少なくとも制度的に事務総局に脅かされるような状態を改善することは急務だろうと思う。

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