
「加害者家族」 鈴木伸元著(幻冬舎新書)。
犯罪を犯した加害者の家族の置かれる状況について迫った新書。著者は,報道番組のディレクターをした人で,メディアの側の人間。
加害者家族の置かれた状況について手際よくまとめている。独自の取材というよりも,関連書を読んでの抜粋も結構多い。何かを伝えたいというよりも,現状を考える素材を提供したという感じ。
メディア側の人間なので,メディアにはかなり甘め。2001年12月に日本新聞協会がまとめた「集団的過熱取材に関する日本新聞協会編集委員会の見解」を紹介するけれど,これに反する,加害者の子どもの通う小学校への取材なんかについてはもっと問題提起されてしかるべきだろうと思う。
また,コメントにはちょっと疑問符がつくところが多かった。特に少年犯罪の親についての記載はむごい。予測できたのではないかとの視点から,いくつか指摘をしているけれど,プロファイリングの見地からも,一定の徴候が見えたからといって,犯罪の予測は不可能だろうと思います(プロファイリングもあくまで結果から遡っているだけで,予測ほど困難なものはありません)。著者のコメントでは,こういう実証性のない部分が目立つのが残念。
挙げ出すときりがないけれど,たとえば,加害者の家族の受けた仕打ちを被害者の家族の受けた仕打ちと比較するのは全くもっておかしい(両者とも無関係な他者であることは変わらない),ドイツ刑法では共謀共同正犯の概念がないことを指摘し文化論めいたことも言いますがこの点も理解が十分とはいえない,また加害者家族の問題について多様な意見がある,民主主義だからといったまとめかたも変。これは加害者家族の生存権の問題(人権)でもあろうと思う,そもそも多数決になじむ話ではなく,彼らを置き去りにする余地はない。
ということで,コメントを読むと執筆者の日和見な態度にムカッと来るけれど,素材をもとに考えるという意味ではよい素材を提供してくれていると思います。
本書を読むと,行為責任というものについての基本的な発想が十分に国民の間に共有されていないのがよく分かります。こういう一種のバッシングについては,むしろハラスメント行為として規制していくのがベストじゃないかと思います(道は遠そうですが)。実際,刑法犯を構成する事例も見られるので,警察がもっとしっかりと対応すべきだろうと思います。
しかし,こういう事例を見ると,犯罪者や反政府的な者が現れた場合に,家族にまで連座を迫る前近代的な社会と一体どこが違うんだろうと,がっかりしてしまいます。

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