「世界の文学セレクション36 チェーホフ」 チェーホフ著,神西清ら訳(中央公論社)。
さて,続きます。
「6号室」
隔離型の精神病棟と,患者に魅せられた医師の行く末を描く。
「それにこんにちの訴訟手続では誤審も大いにありうるし,またあって不思議はないのである。他人の苦しみに対して職務的な,事務的な態度をとる人々,例えば裁判官や警官や医師たちは,習慣のためにだんだん慣れっこになって,いけないこととは思いながら相手に対して形式的な態度しかとれなくなる。」(354頁)
今でも通じる言葉ですね。
「中二階のある家」
美しい姉妹。社会運動に身を投じる姉と読書の好きな妹。主人公は妹に好意を抱くものの,姉に阻止される。
主人公が屁理屈のように述べた言葉,
「必要なのは読み書きの能力じゃなく,精神的能力を広く発揮するための自由ですよ。必要なのは小学校じゃなく,大学なんです」(419頁)は新鮮。
自由で自立した存在というのは,跳ね返ってくる存在。権力にとって都合のいい存在ではないし,そうであってはいけない。そういう意味で,公民館でカルチャースクールはあるのに,政治学の授業がないのには大いに不満がある。
「箱にはいった男」
強迫神経症の男。ある女性と恋仲になるが,メンツをつぶされたと感じ,憤死する
「可愛い女」
相手の思想にすっかり染まる,尽くす女性。ここまで来ると確かに魅力的かもしれない。
「犬を連れた奥さん」
不倫もの。
「いいなずけ」
結婚を控えた女性を描く。マリッジブルーなのか,何だかしっくり来ない。そんな彼女は遠戚の若者から,学問のために飛び立つことを勧められる。女性の解放が描かれる。
チェーホフは意外に理屈っぽいところがあります。また,時代の変化,新しい時代への移り変わりといった主題もよく取り上げられています。チェーホフを読むとロシア文学熱がにわかに起きてきますね。
(おわり)

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