「(音楽)「YOU MORE」 チャットモンチー」
音楽

「YOU MORE」 チャットモンチー(Ki/oon Records)。
発売後一月以上経ち,大分聞き込んだのでそろそろレビューを。ミニアルバム「AWA COME」を経た4枚目のアルバム。セルフプロデュースで,シングルカットはなしの11曲入り。初のアメリカ巡業を経験し(このときの記録は,クリップ集のDVD「VIEW MORE」に収録されています),言葉の通じない中でも,より音楽的な広がりを表現したいと考えた橋本が,自身の世界観を広げるために挑んだ野心作。
収録曲自体は,これまでのツアーなどの流れで出来上がってきた曲たちということで,完全な新曲は多くないそうです。
ファンの間では,これまでの路線から外れた展開に賛否両論が渦巻いている状況です。
本作については,これまでよりもゆっくり構えた,とか,タイトル通りユーモアを感じるとか,これまでで一番前向きなメッセージに溢れている(インタビューで述べられた)といった文脈でとらえられて来ていますが,アルバムのレビューという視点からすると大分距離を感じます。
確かに,前向きな歌詞が見られるのは事実ですが,ユーモアはあるかな?また,曲調からするとバラエティーには富んでいるけれど,軽くなったというのとはちょっと違う気がします(10曲目の「拳銃」は評価が高いけれど,かなりヘビーな曲調ですね,ぼくは苦手)。
そういう感じでどうレビューすべきか悩んでいたのですが,かなり聞き込んだ段階で本作で注目すべきはやっぱり演奏だな!ということで霧が少し晴れました。
リーディングトラックの1曲目「バースデーケーキの上を歩いて帰った」から3曲目までの展開は,よいですね。2曲目の高揚感のある歌詞展開は,聞かせます。3曲目「謹賀新年」の和太鼓なんかは面白いです。サビの願い事,「あなたを愛していますように」は深いですね。いつまでもあなたに愛されたい,ではなく,いつまでもあなたを愛していますように,なのです。
きっとそんな意味では作っていないのかもしれませんが,人の満足はやはり自分の気持ちがどうなのか,なのです。相手が自分を嫌っていようが,自分が相手を愛していられればそれが最高なのであって,一番恐ろしいのは自分の気持ちが変わってしまうことなんじゃないかなーと。
5曲目「涙の行方」は,レゲエ風トラック。レゲエ畑の人にヘビーにリミックスしてもらったり,ダブ化してもらってシングルカットしてもらいたいもんですね。
この曲では,橋本のボーカルの進化を感じます。この手の曲は非常に歌うのが難しいのですが,うまい具合に曲と調和していると思います。
6曲目「Boyfriend」は,ベースのあっこちゃんが作曲の曲。舌足らずの橋本萌えを爆発させたような曲ですね。ただ,この後に7曲目の「桜前線」を持ってきたのは失敗じゃないかな,「どうでもいい」,「くだらない」ことに溢れている,なんていう歌詞が流れてくると,6曲目は全否定かい,と思ってしまいます。
8曲目「Last Kiss」は,ヨラテンゴのようなギターの刻みで始まる,物憂い感じの曲。この演奏なんかに,洋楽ファンは耳をすますべきでしょう。
9曲目「少年のジャンプ」も,盛り上がっていく感じの曲で2曲目に通じる。
「告白」のレビューの時に,次作はポップになるんではないかと予想しましたが,これは外れたといっていいでしょう。バンドとして行くという決意表明のように感じました。 いろいろ言われたとしても,今後もマイペースで伸びやかに曲を作っていってもらいたいと思います。

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