
「綿の国星」 大島弓子著(白泉社文庫)。マンガ。
全4巻。いわゆる猫らしい猫が出てこない猫マンガ。主人公は,須和野家の飼い猫であるチビ猫。猫はみんな人間のようにデフォルメ化されている。チビ猫は,少女。最初は違和感を感じたけれど,仕草や行動はまぎれもなく猫なので,次第に馴染んでくる。
マンガは,チビ猫の視点で進む。このチビ猫の見方が,なんともかわゆいのであるが,このあたりは受け取り方に個人の好みが出るかもしれません。
須和野家の面々も個性的で(お父さんは作家),前半は,須和野家の人々とチビ猫の交流を描くという感じ。
後半,チビ猫が出てこない話がいくつか盛り込まれるけれど,この完成度も高い。
忘れられないエピソードはたくさんあるけれど,個人的には,作家の卵が転がり込んでくる話(「晴れたら金の鈴」3巻所収)。お母さんが応募した作品で佳作を取ったため,次回作の執筆をする間,お父さんが家事をするんだけれど,お父さんのファンだという作家の卵の若い女性が転がり込んでくる。二人の関係の危うさと,彼女が仕事全般に発揮する,とんでもない素人さ加減で,家中のみんなが振り回される。
どろどろした展開になるのではないかと冷や冷やしながら頁を繰ってしまいます。このキャラクターの造形はすごい力だと思います。
それから,近所の年輩の男性と女学生(しかも中学生)との恋を描く話(「お月様の糞」3巻所収)も捨てがたい。
あー,それから,弱った猫が須和野家に連れ込まれてちやほやされて,チビ猫が激しい嫉妬を感じる,「椿の木の下で」(4巻所収)もいい。チビ猫の心境を思うと,読んでいるこちらも胸が痛い。
いやー侮れないですよ。この4冊は。

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