
「狼たちの月」 フリオ・リャマサーレス著,木村榮一訳(ヴィレッジブックス)。
いとこにスペインの作家,リャマサーレスを勧められて,まずはこちらを手に取った。リャマサーレスは詩人としてスタートした人のようで,彼の最初の長編散文とのことです。文章を読むとそのあたりのところはよく分かります。表現はなかなかかっこいい。
スペイン内戦でフランコ率いる反乱軍に統治されてしまった村で,反政府勢力として逃亡を続ける4人。4部構成で,1937,1939,1943,1946の各年を舞台にしています。
スペイン内戦としては,1939年にはバルセロナが陥落し,同年2月には英仏がフランコ政権を承認し,同年4月にはフランコ側の勝利宣言がなされていますので,内戦自体というよりは追われる者たちの姿という時間軸です。
彼らは軽機関銃とピストル,手榴弾のみで農村地帯を逃げ回ります。タイトルにも出ている狼のごとく,追われながら,隠れながら,時には物資を銃の威嚇で補給しながら先の見えない日々を送っていきます。村からの出征者たちであるために,抵抗線戦の中央とのパイプなんていうものは全くなく,絶望的な日々を送りながらも村のそばから離れることもできずにいるという苦しい立場です。
主人公の家でも,反政府勢力を輩出したということで厳しい締め付けがあり,父や妹は理不尽な扱いを受けたりします。(そこにいるのに)戻りたくても戻れない故郷,戦闘が終わっているのに日常に戻れない者たちという,ある意味切ない物語です。
元々スペイン内戦に関心のあった人にとっては,興味深いですが,そうでない人にとっては泥臭い逃亡物という印象で,ちょっと地味な作品かもしれません。

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