
「水中都市・デンドロカカリヤ」 安部公房著(新潮文庫)。
短編11編が収録された,初期の作品集。短編もいいね。巻末のドナルド・キーンの解説でも述べられるとおり,純粋に小説として楽しめるし,楽しむべきだと思う。
「デンドロカカリヤ」
植物に変異してしまうコモン君。謎の男に追われる。
「手」
かつて鳩だったおれは,平和の象徴たる鳩の像になった。そんなおれをかつての飼い主は盗みにやってきた。
「飢えた皮膚」
皮膚の色がカメレオンのように周囲の色に作用されて変わるという奇病をでっちあげて,夫人をおとしめようとする男。本当にサディスティックな男だと思う。
「詩人の生涯」
抽象性の高い話。編み上げられたジャケツ(実際はセーターじゃないかと思うが)と,恐ろしいほどの冷気。
「空中楼閣」
アパートの前の電柱に貼られた,空中楼閣建設事務所の工員募集広告。失業中の主人公は,次第にその広告に魅せられていく。猫に符号を感じる主人公が変にキュートだ。
「闖入者」
ある日アパートにやってきた,家族。突然やってきて,仲間内の民主主義でもって,自分の生活を支配し始める。伊藤潤二にマンガ化してもらいたいような話。
「ノアの方舟」
村を独裁的に支配するノア先生。天涯孤独の身の上となった主人公は,そんな村を脱出し,ある日村に戻ってくる。
「プルートーのわな」
ねずみと猫の寓話。誰が猫に鈴をつけるのか。
「水中都市」
ある日主人公のアパートにやってきた男は,自分はおまえの父だと言う。父と名乗る男の変異と共に,町は水中都市と化す。
「鉄砲屋」
馬の目島にヘリに乗ってやってきた外国人の男。男は,雁もどきが大量に飛んでくるので,その鳥たちを撃ち落とせば買い取るといって,鉄砲の購入を勧める。
政治的な色合いの強い作品で興味深く読むことができた。
「イソップの裁判」
イソップであると疑われて,裁判を受けることになった,教師であり天文学者である男。シリアスな作品。
それぞれに魅力的である。本筋とは関係ない部分も光っていたり,他方で後ろの二つの作品のように,ある意味硬派な作品も読む人をハッとさせる。そして嫌みでもない。また教養をひけらかすこともない。話の筋立てとは別に本人は素朴な人だったのではないかと思うがどうだろう。

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