

「伊豆の踊子」 川端康成著(新潮文庫)。
短篇集で,4篇の短編が収録されている。
「伊豆の踊子」
学生さんと踊子を含む旅芸人の一行との出会いを描く。主人公は,追っかけの要素もあって,憧れの踊り子たちに合流する。
大島の女性たちは,はにかみ,彼は淡い恋心を抱く。ドロドロする前の若さのようなものが表現されているが,彼の作品に出て来る女性たちの生命力といったものもやはり強く光っている。
「温泉宿」
温泉宿の女性たちの群像。女性たちの視点で描かれている。
こういう作品を読むと,倫理観うんぬんというフェミニズム的批判は必ずしも文学には当たらないことが分かる。
「抒情歌」
女性の手記の形を取った作品。女は,神童として才能を発揮したのであったが,遂には予知能力まで持つ。そんな女の恋した男とは運命的なものを感じたが,男は彼女を去り他の女性と一緒になる。そんな恋人も亡くなってしまい,彼女は死人となった恋人へ語りかける。霊の世界なんかにも触れられており,著者の関心のほどが窺われる。
「禽獣」
鳥を愛する主人公。つがいの菊戴(スズメ目キクイタダキ科キクイタダキ属)を飼うことになったが,ふとした隙に一匹が逃げてしまう。残された雌のために鳥を求めるが,やってきたのは,つがい。結局3羽一緒にしてしまうが,雌の一羽が亡くなってしまう。こうして結果としては,丁度よい具合になったのだけれど,今度は水浴びのしすぎで瀕死の状態。そして,これに対処しようとした主人公の対応で,結局2羽とも死んでしまう。
何ともインパクトのある鳥談義という印象。あたかも乱歩の小説を読むかのような味わいがある。

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