

「東海道四谷怪談」 鶴屋南北作,河竹繁俊校訂(岩波文庫)。
やにわに江戸の世界にはまっていたりする。本作は,歌舞伎の脚本で全5幕。四谷怪談自体は,有名で「お岩さん」というと,みんな「あー,あれね。」と言うけれど意外に読んでいる人は少ないんじゃないかと思う。
鶴屋南北の傑作です。
岩波文庫版は,注が「東海道中膝栗毛」よりは細やかではなく,むしろ脚本の異同の部分に力が入っているけれど,基本的にセリフで構成されるので,読むのに支障はなく楽しめました。
通しで見たことはないけれど,場面場面は見たことがあって,演出や囃子についての記載があったりするので,また歌舞伎を見に行きたいなーという気持ちにさせられました。
本書は,いわゆるお岩さんの話に,忠臣蔵を混ぜ込んでいるので,そのあたりが単なる怪談とはいえません。また,序幕では,地獄宿という売春宿が出てくるのですが,このあたりの描写も異色です。
伊右衛門の対応は本当にひどいですね。お岩との仲を引き裂かれたことに恨みをもって,お岩の父を殺しておきながら,あっさりお岩を棄てる描写には,劇画世代も真っ青という感じで,よく上演禁止にならなかったなーと思わされます。
後半は,仇討ちが絡む筋立てになっていくのですが,この仇討ちが絡むと虚実様々入り乱れて,どんでん返しの連続といった雰囲気で当時の観衆も随分引き込まれただろうなーと思いました。
まだまだ通用する江戸の名品たちといったところ。

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