(映画)ミッシング・ポイント


「ミッシング・ポイント」 ミーラー・ナーイル監督,リズ・アーメッド,リーヴ・シュレイバー,ケイト・ハドソン出演(2012,米英カタール)。映画。
テロ問題を描く社会派映画。パキスタンで米国籍の大学教授がテロ組織に拉致される事件が発生する。CIAは,アメリカ留学経験があり,米大手調査会社でも勤務経験のある同大学の教授であるパキスタン人のチャンゲスが事情を知っていると見て,接触をする。
パキスタン出身のチャンゲスは,米国留学を果たし,大手の調査会社に勤務し,出世の道を歩む。しかし,9.11テロは,彼の未来を変える。本作は,チャンゲスの視点から描いている。
テロリストは,姿が見えないものであって,テロ及びテロ犯への対応というものが,冷戦時代以上に我々の人権を蝕んでいる。
チャンゲスもパキスタン人であるというだけで9.11後には米国で言われない差別を受ける。テロ防止を目的とした警察の過剰な対応は,実際に多くの人たちの人権を侵害したはずだが,現在に至るもその点についての十分な反省は見られないように思う。きっと,テロが起きるよりはいいだろうという発想なんだろうけれど,人権感覚もここまで鈍磨してしまったかと思わざるを得ない。
本作では,そういったテロが投げかける問題に加え,様々な視点が散りばめられている。 チャンゲスが米国で交際した芸術家の女性との関係では,人種の違いや将来に対する考え方の違いに加え,彼女が直近に恋人を事故で失っていることなど,これでもかといった具合に複雑な要因を混ぜ込んでいる。
また,持つ者と持たざる者,いわゆる格差社会についても問題提起を行っている。チャンゲスの勤務した大手調査会社は,いわゆるグローバル企業で,世界中で経営合理化の観点からリストラを行っている。彼はこういう方向性の中に,具体的な人,文化に対する冷酷な視線を見る。テロないし対テロ戦というものが,こういう格差問題から目をそらしていないかという問題提起を行っているようにも思え,秀逸だった。
テロとの戦いも経営の合理化,競争力の強化も,個々の人間を置き去りにしていないかとの問いがなされ続けていく必要がある点では共通する。
パキスタンの大学も出て来るけれど,大学というよりはバラックといった雰囲気で随分印象が違う。また,対テロ戦に巻きこまれて困難な舵取りが迫られているパキスタンで,どうやって再建を考えていくかということも,想像を絶する困難であることが容易に想像される。
映画の行間を考えると,非常に重い問題提起が拡がる秀作である。

0