
「
西部戦線異状なし
」 レマルク著(新潮文庫)。
第一次世界大戦に従軍したドイツ兵の視点から,戦場を描いた名作小説。ケナンの
アメリカ外交50年に引用されていたので,本書が第一次世界大戦を描いた小説であることを初めて知った次第。題名がどうしても,ピンときませんよね。あと訳出が一部不適切な表現を使っている部分があります。おそらく訳が古いためでしょう。
第一次世界大戦は,近代戦争の走りですね。なので,本書でも手榴弾,地雷,火炎放射器,毒ガスまでもが出てきます。
しかも,負けたドイツな訳なので,戦線は明るいとはいえません。レマルクは,ジャーナリストなだけあって,描写はしっかりしていますし,あっという間に読むことができてしまいます。
読めば読むほど,戦争って不毛だなーと思ってしまいます。第一次世界大戦は,これだけの戦争の後に,再び第二次世界大戦が控えているという意味で,本当に救いがない気がします。一体,あの経験は何だったのかという叫びが聞こえてくるようです。
厳しい学校生活と同じで,戦争も友人,仲間との関係がなくては乗り越えられません。楽しい思い出も戦争なりにあります。でも,やはりそれは大きな喪失なんですよね。
先進国と言われる国にいればいるほど,現在は戦争の本当の姿が見えにくくなっています。マイケル・ムーアの華氏911には,ロック聞きながら戦車で砲撃する若者が出てきました。でも,砲撃されるイラク側では,どうなのか,MP3プレーヤーどころか,食料や医薬品を手に入れるだけで汲々なわけです。
ぼくらは,戦争の姿を忘れてはいけないし,できることといえば先人の残した記録をたどって追体験するしかない(そういう意味では日本の戦争についても数々の貴重な記録があります。)。
本書を読み,夜の闇に向かった時に,今我々は果たして本当に生きているんだろうか,進化したといえるんだろうか,なぜ未だに変えることができないんだろうか,と反問してしまう。
「
この世の中にこれだけの血の流れがほとばしり,幾十万の人間のために苦悩の牢獄が存在することを,過去千年の文化といえども遂にこれを防ぐことができなかったとすれば,この世のすべては嘘であり,無価値であると言わなければならない。野戦病院の示すものこそ,まさに戦争そのものにほかならない。」(301頁)
今も何も変わっていない。

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