先日読んだ,
「在日,激動の百年」で知った在日の作家の作品。
「光の中に」 金史良(きむ・さりゃん)。
青空文庫に収録されていることを知って,読んでみました。
この作品は,1940年(昭和15年)の芥川賞候補になったそうです。年代が重要ですね。戦中の作品です。
翌年の太平洋戦争に伴い,拘束され,朝鮮に帰るとのことですので,当時の時代の空気を伝える貴重な記録でもあります。
ストーリーとしては,S大学協会の夜間部で英語を教える朝鮮人の講師と子どもとの話ですが,朝鮮人差別の問題を深く考えさせる内容になっています。日韓併合により,日本とされていた朝鮮から帰国した子どもに,朝鮮人に対する差別感情がある,などという記述を見ると,なるほどと思いますね。これも他国に滞在することによる,アイデンティティの問題である訳です。
この作品に出てくる,主人公の教師の視点は,どこまでもやさしい。教育の原点というのは,こういうことを言うのではないかと再認識させられました。教えても無駄だ。言っても無理。環境が悪すぎるよ。こういう言葉は簡単に発することができます。
でも,それを放置していて,彼のためになるのか,どうして無理だと決めつけられようか,そんな覚悟が伝わってきます。
こういう人種の問題をストレートに意識させられる時代を超越した現代に少しは希望を感じますが,他方で,教育,人への関わり合いについては,後退している印象を受けてしまいました(最近は,能力のある人間に教育をすべきだという風潮が強まってきている。)。

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